第二十二話 あんぱんジャムパンクリームパンと衝撃の事実
「ん…………う、うわぁぁ、ゴブリンッ」
飛び起きて辺りを見回すと、暗がりの中、フェルが隣にいた。
もうこんな時間か、けっこうな時間気を失ってたってことか……。
『どうだ?実戦は為になっただろう』
何が為になっただろうだよ。
あんなひどい目に遭わせといてさ。
小汚い緑色の小鬼が一斉に迫ってくるあれは軽くトラウマだぜ。
しばらくの間は大量のゴブリンが迫ってくる悪夢を見るぞ。
『最後に放ったファイヤーボールはなかなか良かったぞ』
そう言って、フェルがうんうん頷いている。
『魔法が出来るようになったのも我のおかげだな』
「何が我のおかげだよ。俺は初心者なんだから、まずは1匹とか2匹から始めるべきだろうが。それをゴブリンの集落なんかに連れて行きやがって」
確かに最後に放ったファイヤーボールはいい出来だったぜ。
でもな、いきなりゴブリンの集落に連れて行くってのはないと思うんだ。
『お主があの程度の魔法でもたもたしてるのが悪いのだ』
ぐぬぬ。
これだから天才肌は嫌なんだよ。
「フェルみたいに出来るわけないだろうが。フェルも鑑定できるなら俺のステータス値分かんだろうが」
ったくフェルと俺とじゃ天と地ほどの差があんだっての。
『ぬ、お主レベルが上がっておるぞ』
え?マジで?
急いで自分でも鑑定してみる。
【 名 前 】 ムコーダ(ツヨシ・ムコウダ)
【 年 齢 】 27
【 職 業 】 巻き込まれた異世界人
【 レベル 】 3
【 体 力 】 110
【 魔 力 】 110
【 攻撃力 】 83
【 防御力 】 82
【 俊敏性 】 78
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 火魔法
従魔
《契約魔獣》 フェンリル
【固有スキル】 ネットスーパー
やった!レベル上がってるぜっ。
体力とか魔力とか他のステータス値も少しだけど上がってる。
あ、あとスキルに火魔法がある。
これで俺も魔法使いだぜって、職業欄は未だに巻き込まれた異世界人かよ。
これって何時になったら変わるんだろ?
レベル上がったり、スキル増えたりすれば当然変わるよな。
……まさかずっとこのままってことは、ないよな?
いやいやいや、まさかねぇ。
『そうだ、これを』
ステータスについてあれこれ考えていると、フェルがのそりと立ち上がった。
そして、2メートル半くらいはありそうな緑色の大きな物体を前足で俺の方に転がした。
「うおっ」
めちゃくちゃデカいゴブリンだった。
鑑定してみると、ゴブリンキングと出た。
ゴブリンキングって、フェルさん……。
確かにあのとき上位のゴブリン狩ってくるって駆けてったけどさ、あの集落にキングいたんだね。
フェルはそんな集落に俺を連れて行っちゃったわけなんだね。
『そのゴブリンキングには魔石がある。人の間では魔石は金になるんだろう?ゴブリンなど食えないし、何の役にも立たないのだが、そのゴブリンキングには魔石があるようだからわざわざ持ってきたのだ』
あ、そうなの。
ってことはゴブリンキングってBランク以上ってことか。
「ゴブリンキングってBランクなのAランクなの?」
『ランク?ランクとやらはわからんが、我くらいになると魔石持ちかどうか見れば分かる』
へーそうなのか。
なら、フェルには魔石持ちの魔物を優先的に狩ってきてもらえば俺大金持ちだな。
ってそんなことやらんけど。
そんなことしたら絶対面倒事になるし。
『お主も気を失っていたからな。お主とゴブリンキングを背負って先に進むには、我でもさすがに骨が折れる。だからここでお主が目覚めるのを待っていたのだ』
ふーん、それで?
何でフェルさんはさっきからチラチラとこっちを見てるのかな?
『そいつは魔石持ちだ』
うん、だから何だって言うんだよ。
『魔石は金になるのだろう?』
そうだね。
この間冒険者ギルドに行ったときは、Bランクのジャイアントドードーもジャイアントディアーも小さいけど魔石があるっていうだけで、買取金額が跳ね上がってたし。
『それならば、異世界の馳走で我を労うべきではないのか?』
はぁぁぁぁぁあ?
こいつ、国産黒毛和牛ステーキで味を占めたな。
「あのなぁ、あの時は大量に魔物がいただろう?」
『む、この間また大量に獲ってきたではないか。あれらはほとんど魔石持ちだぞ』
あれは別に決まってるだろ。
原因が
「あのな、冒険者ギルドで買取してもらった分の肉がまだまだ残ってるからこの間獲ってきたやつは当分換金しないぞ」
『ぬ、そうか。それならば異世界の馳走は諦める。だが、腹は減ったぞ』
まったく変なこと覚えやがって。
ゴネられなくて良かった。
だけど、俺まだ本調子じゃないんだよな。
魔力切れ起こしたからか体がダルい。
フェルの飯作るのメンドい。
それにゴブリンの集団にいきなり放り込まれた仕返しもしてないしな。
これは、肉抜き飯の刑だな。
俺はネットスーパーの画面を開いた。
えっと、疲れたときは甘いものだよな。
あんぱんとジャムパン(いちご)でいいか、俺けっこう好きだし。
フェルも同じでいいや、っと大食いだしクリームパンも買っとくか。
とりあえずそれぞれ5個ずつで。
あんぱんとジャムパンのお供はやっぱり缶コーヒーだな。
お、缶コーヒー箱買いできんじゃん、これにしよう。
缶コーヒーを箱買いするなら、買おうと思ってたインスタントコーヒーはとりあえずはいいか。
それに調味料類と野菜類も補充するつもりだったけど、よく見てから買いたいし、次でいいや。
それじゃ精算しますか。
チャージした金額が残り少ないから、追加で金貨5枚ほどチャージしてそこから支払った。
袋から出したあんぱんとジャムパンとクリームパンを皿に並べてフェルに出した。
『何だ、これは?』
「あんぱんとジャムパンとクリームパンだ。甘いパンだよ」
『む、肉ではないのか?』
「フェルは倒れて起きたばっかりの俺に食事の用意させるんだ?」
『ぐぬぬ。分かった、これでよい』
フェルはふんふんと匂いを嗅いだ後にあんぱんに齧り付いた。
『むむむ、これはこれでなかなかに美味いな』
え、菓子パンいけるの?
次にジャムパンを食うと『おお、これも美味いな』と気に入った様子。
クリームパンも『乳の味を濃くしたような味がするな。これも美味いぞ』とこれまた気に入った様子だ。
えーっ、フェル甘いのもイケるの?
全然仕返しになんねぇじゃんか。
『おかわり』
むしろ喜んでおかわり要求してくるし。
って、でも菓子パン15個食ってるんだぞ、これ以上食ったら食い過ぎだぞ。
糖尿(フェンリルに糖尿病があるのかは知らんが)とか虫歯も注意だ、肉が食えなくなるぞ。
「甘いもの食い過ぎると病気になるぞ」
『ふん、我が病気などになるものか。そんなことよりおかわりだ』
仕方がないからあんぱんとジャムパンとクリームパン各種2個ずつ追加してやりながら「病気にならないってどういうことだ?」と聞いてみた。
『風の女神ニンリル様の加護があるからな。我の場合は風の女神ということで風魔法が上手く使えるようになるほか、毒や病気はもちろんのことあらゆる状態異常を無効化する。ちなみに状態異常の無効化はどんな神の加護でも付くぞ。神の加護とはそういうものだ』
神の加護があるだけで、あらゆる状態異常無効化?
え、何その衝撃の事実。
神様の加護、ズルい。
あらゆる状態異常を無効化って、それだけでチートやん。
フェルは加護がなくても強いだろ。
俺にこそ神の加護が必要だよ。
神様、誰でもいいから俺に加護をくださいーーーっ。