第二十一話 フェルさんのブートキャンプ
本日は閑話と21話更新です。
俺はがんばった。
ここ3日間魔力を体に巡らすということだけをひらすらやり続けた。
だから、できるはずだ。
できる、俺はできるんだ。
行くぞッ。
「ファイヤーボール」
突き出した右手の手の平の上にソフトボール大の
だが、それだけではファイヤーボールとは言えない。
それを飛ばして爆散させてこそファイヤーボールだ。
俺は道の先にエイっとファイヤーボールを投げた。
ママチャリくらいの速度でファイヤーボールは飛んでいく。
そして20メートルくらい先で速度を落として落下。
「ボンッ」
小さい爆発(と言っていいのか?)が起こった。
自分で言うのも癪だがかなりショボい。
これでは攻撃のこの字にもなりはしない。
フェルはフェルで横でまた馬鹿にしたように鼻を鳴らしてるし。
くっそーーー。
『訓練あるのみとは言ったが、ここまでしてこれしかできぬのなら実戦してみたらどうだ。長い訓練よりも、一度の実戦で得るものの方が多いこともあるぞ』
「それはそうかもしれないけどさ……それって魔物と戦うってことだろ?俺は剣だって使えないし、魔法だってこの有様だ。怪我とかしたらどうすんだよ?」
『何、心配はいらぬ。我が結界を張ってやる。魔物からの攻撃は防ぐが、お主から攻撃する分は妨げない。それに我が傍にいるのだ、臆することはない』
「でもさ……やっぱ怪我とかしたらヤダし…………」
『ええい、この意気地なしがッ。早く我の背に乗れいッ』
俺のうじうじした態度にキレたフェルに無理やり背に乗せられた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て、どこ連れてくつもりなんだよッ」
焦ってそう聞くと、フェルは『もちろん魔物がいるところだ』と言う。
「なっ、魔物って、今の俺じゃヤラれちまうって!」
『大丈夫だ。お主に合わせて弱い魔物を選んでやる。それに我もいるから、心配するな』
心配するなって、心配するよっ。
ヘタレと思われようがなんだろうが、いきなり魔物となんて戦えっこないだろうが。
『ぬ、ゴブリンがいるな。丁度いい。気付かれぬよう我は気配を消すから、お主も静かにしていろ』
そう言うとフェルが駆け出した。
丁度いいじゃねぇっての。
…………何じゃこれは。
ゴブリンだらけだ。
フェルに連れてこられたのはゴブリンの集落だった。
『ゴブリンだ。魔法を撃ってみろ』
いやいやいや、これはいくら何でも無理でしょ。
俺にどないせいっちゅうねん。
『早く撃て』
「何言ってんの、あんなにいるのに無理だって」
『ぬ、結界なら張ってやる。ほら、もう大丈夫だ』
「大丈夫って全然大丈夫じゃないからっ」
『腰抜けが。お主が行かぬのなら我が行くぞ』
そう言ってフェルは『ワォ―――ン』と鳴いた。
って、ここで鳴くなよっ。
ほら、ゴブリンが一斉にこっち見てる。
げッ、気付かれた。
ギャーッ、こん棒とか剣とか斧もった大量のゴブリンがこっち来たーーーーーーッ。
『ふん、これでお主も戦わざるを得ないだろう。魔法を撃って撃って撃ちまくって体で覚えるのだ。我は上位のゴブリンでも狩ってくる』
「ちょ、一人にすんなってッ!!!」
何が『魔法を撃って撃って撃ちまくって体で覚えるのだ』だよッ。
クソーーーッ、覚えてろよフェルめ。
うわーッ、ゴブリンが来るーーーッ。
「ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ」
俺のへっぽこファイヤーボールがゴブリンに当たる。
へっぽこでも火は火、ゴブリンにダメージが入る。
俺は更にファイヤーボールを撃つ。
俺の周りは既にゴブリンだらけだったが、ゴブリンがこん棒を振ろうが、剣で斬りかかろうが、斧で頭をかち割ろうとしようがすべてフェルの結界が防いでくれた。
とは言っても迫りくるゴブリンの軍勢に恐怖心が湧き上がる。
それを払拭するように、俺はとにかくファイヤーボールを撃ちまくる。
「ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ」
フェルの言ったとおりにとにかくファイヤーボールを撃って撃って撃ちまくった。
「ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ」
くっそ、まだまだぁ。
「ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ」
すると、撃てば撃つほどだんだんと速さも威力も増していった。
数を撃つ中で慣れてきたというか感覚が掴めてきたようだ。
俺は更にファイヤーボールを撃っていった。
「ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ、ファイヤーボールッ」
どんどん、どんどん撃っていく。
ファイヤーボールを撃ちまくってどれくらいの時間が経ったのか。
「ハァ、ハァ……ファイヤーボールッ!!!」
かなりの速度を持って放ったバレーボールくらいの大きさの
俺が理想としていたファイヤーボールそのものであり、最後の一発だった。
「も、もう、ダメだ……」
これが、魔力切れってやつなのか?
力が入らない。
まだまだゴブリンは残っているが、もう俺は動けないぜ。
『ふん、やれば出来るではないか』
「フェル……」
おお、帰って来てくれたか。
俺はもうダメだ。
あ、あとは任せた。
俺はフェルの姿を確認したと同時に意識を失った。