第十八話 魔法の訓練を開始する
ファリエールの街を出てフェルと一緒に道を歩いている。
フェルが一緒だからなのか、魔物は一切見かけない。
レイセヘル王国の王都からの道中にもゴブリンやグレイウルフなんかは出てきてたんだけど。
俺としては魔物が出ないことに越したことはないが。
特に目的地も定めないまま歩いている途中に俺は気になっていたことをフェルに聞いてみた。
「なぁ、フェル。フェルは魔法が使えるんだよな?」
『ああ、使えるぞ』
薬草採取のクエストのときに結界魔法を使ってくれたけど、あれは目に見える形じゃなかったからいまいちピンとこなかったんだよな。
火とか水とかの目に見える方が魔法って感じするし。
「俺にも魔法使えるようになるかな?」
やっぱり魔法がある世界に来たなら使ってみたいって気持ちが出てくるでしょ。
だって魔法だよ魔法。
いい歳してって感じだけど、やっぱりワクワクしちゃうぜ。
『魔力があれば使えるだろう』
ほうほう。
一応は俺も魔力はあるから使えるのか?
「魔法ってどうやったら使えるようになるんだ?」
『どうやったらって使おうと思えば使えるだろう』
「使おうと思えばって?」
『だから風魔法を使いたいならば風魔法を使おうと思えば使えるし、火魔法を使いたいならば火魔法を使いたいと思えば使えるだろう』
……こりゃダメだ。
フェルは感覚的に物事をつかむ天才肌なんだろう。
うーん、使おうと思えばってイメージが大切ってことか?
イメージ、イメージ、イメージ。
火の玉、火の玉、火の玉、ファイヤーボール、ファイヤーボールだ。
右手を突き出して「ファイヤーボール」と唱えてみる。
シーン…………。
は、恥ずっ。
『お主、何をやっておるのだ?』
フェルが呆れたように俺を見ていた。
くっ……そんな目で見ないでくれよ。
『魔力を体に巡らせなければ魔法は使えないぞ』
え?そうなん?
ってかそういう基本的なことが知りたかったんだけどな。
「魔力を巡らすってどういう風に?」
魔力自体どんなもんかよくわからんしな。
『言葉で伝えるのは難しい。今、我の体に魔力を巡らせたから我に触れてみろ。そして感じ取れ』
感じ取れって、そんなもん感じ取れるもんなのか?
ちょっと疑いつつフェルの背中に触れた。
おっ……。
何となくだけど分かるぞ。
温かい何かがフェルの中を流れているのが何となくだけど感じ取れた。
おぼろげだけど、何か掴めたような気がする。
『分かったか?』
「ああ、何となくだけどな」
『それなら後は訓練あるのみだ』
やっぱそうだよね。
よし、やってみよう。
魔力、魔力、魔力、温かい何か、魔力、魔力……ん、何かある。
体に巡らせる、血管を流れる血液みたいに、巡る、巡る。
そんな感じで歩きながら、体に魔力を巡らせる訓練をした。
『おい、腹が減ったぞ』
フェルにそう言われてハッとした。
もうそんな時間か。
「んじゃ、昼食にするか」
道の脇の空いてる場所に移動する。
さて、何を作ろうか。
よし、簡単だしポークチャップにしよう。
ポークじゃないけど、似てそうなオークの肉を使ってみる。
実のところ本当に大丈夫か?って思いもあるんだけどね。
だって二足歩行の豚だぜ?
でも、この世界の人たちは普通に食ってるみたいだし、冒険者ギルドのおっさんも食えるし高級品の部類だって言ってたからな。
オーク肉はたくさんあるから、とりあえず挑戦してみないと肉がもったいないし。
ダメだったらフェルに全部食ってもらおう、うん。
まずは玉ねぎを薄切りにして、オーク肉も薄めに切っておく。
あとはケチャップとウスターソースに砂糖、それから酒と醤油を少々混ぜてソースを作る。
フライパンでオーク肉を焼いてさっと色が変わったら玉ねぎを入れる。
肉と玉ねぎを炒めていき、玉ねぎの色が透明になってきたらソースを投入してソースが絡むように軽く炒めてポークチャップの完成だ。
鼻をヒクヒクさせながら待っていたフェルに出してやると、バクバク食い始める。
『うむ、これも美味いぞ』
それは良かった。
フェルはオーク肉でも全然平気なんだな。
さてと、俺も食ってみるか。
見た目はポークチャップだし美味そうなんだけど……。
思い切って口に放り込んだ。
モグモグ、モグモグ…………あれ?美味いじゃないの。
全然平気、というか普通に美味いよ、これ。
ブランド豚とかの高級豚肉っぽい。
何だよ、美味いじゃんオークって。
あの姿に忌避感があったけど、こりゃ美味いぜ。
高級ブランド豚だと思えば全然大丈夫だ。
うんうん、美味いね。
そして邪道だけど、このポークチャップをパンにはさんでパクリ。
うん、いけるいける。
『おい、おかわり』
俺はポークチャップサンドを食いつつ、フェルのおかわりのポークチャップを作ってやる。
フェルが満足したところで食後の小休憩をとり、また歩き始めた。
もちろん俺は魔力を体に巡らせる訓練をしながらだ。
歩きながら魔力を体に巡らせる訓練をしてしばらく経ったところでようやく形になってきた気がする。
何かもうそろそろ魔法できそうな気がする。
よし、右手を突き出して手のひらを上に向けてと。
「ファイヤーボール」
ポッ。
俺の手のひらの上にロウソクの炎のような小さな火が灯った。
…………。
『フスンッ』
フェルさんや、馬鹿にしたように鼻を鳴らすのは止めておくれ。
確かにショボいけど、これはこれで失敗じゃないと思うんだ。
何にもないところから火を出せたんだから。
うん、失敗じゃない。
失敗じゃないったら失敗じゃないんだ。
……でも、本来の