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第九十三話 ムコーダ、風呂を買う。

今日は93話と94話更新です。


 俺は今、イラリオ商会に向かっている。

 ランベルトさんから教えてもらった風呂を売っている店だ。

 場所もランベルトさんからバッチリ聞いてある。

 お、あそこだな。

 さすがにデカい店だな。

 店に入ると、店員さんがフェルを見て顔が引きつっている。

 まぁこんなデカい魔獣連れてたらそら驚くわな。

 でも、さすが大店(おおだな)ということで教育が行き届いているのか、追い返されたりはしない。

「ど、どのようなものをお探しですか?」

「あの、風呂を見せてもらえますか?」

「風呂ですか。こちらへどうぞ」

 どう見ても金持ちには見えない俺が風呂を見たいと言ったのに、その辺は大丈夫みたいで見せてくれるようだ。

 店員さんに付いていくと、店の奥に風呂が並んでいた。

 大きさは大・中・小とあり、ランベルトさん宅にあったのは中のようだ。

 見た感じ、小でも俺1人入る分には足を伸ばしても十分に入れる大きさだ。

「小でも十分かな……」

「こちらの大きさのものですと、いくつか取り揃えておりますのでご覧になってください」

 店員さんは俺のつぶやきを聞き逃さずにすかさずすすめてくる。

 俺としてはありがたいので小のタイプをいくつか見せてもらった。

 やはり一番安いのは色がついてない茶色のものだ。

 これで金貨300枚だそう。

 ランベルトさんに聞いていたとおり、風呂はかなりの高額商品だった。

 次に見せてもらったのが深い緑色をした風呂だ。

 落ち着いた色合いがいい感じだ。

 これが金貨370枚。

 色つきになると価格がポンと跳ね上がったな。

 店員さんに聞いてみると、やはりこれだけの大きさのものに均一に色付けをするにはかなり難しい技術が必要とのことで、その辺も価格に反映されているそうだ。

 色つきのものは高いけどいい色合いだし、今のところ懐にも余裕があるからこれは第一候補だな。

 次に見せてくれたのは、真っ白な風呂だ。

 白は普通に風呂って感じがするし、清潔感もあっていい感じだ。

 これが金貨430枚とのこと。

 緑の色つきより高いんだな。

 どうしてか店員さんに聞いてみると、この白い風呂は新商品で最近売り出され始めたものなのだそうだが、この白い色を出すために粘土に特殊な素材を練りこんでいて、その特殊な素材というのが入手困難なものなんだそうだ。

 その辺で高めの価格になってしまっているようだ。

 その次に見せてもらったのは、花柄の絵付きの見た目にも豪華な風呂だった。

 こりゃ高いだろうと思ったら、やっぱり高かった。

 値段を聞いてみてびっくり、金貨500枚とのこと。

 単色で色をつけるよりも絵付けするのは難しく相当技術のいる作業なのだそう。

 それができる職人も限られているため、この値段なんだそうだ。

 見た目にも豪華だけど、これはないな。

 それこそ貴族のお宅にあるような風呂だ。

 俺は旅の途中に使うんだから、豪華さは意味ないしね。

 となると、やっぱり第一候補にしてる深い緑色をした風呂だな。

 うん、これにしよう。

「すみません、この緑色の風呂をください」

 その辺を歩いている一般人と変わらない俺みたいなのがすぐに風呂を購入するとは思っていなかったのか、ちょっと驚いている。

「き、金貨370枚になりますが、よろしいですか?」

 そのよろしいですか?は金貨370枚持ってるのかってことか?

 ふふふ、持ってるんだよ、これが。

 フェル様様でね、余裕で即金払いできるぜ。

「はい、金貨370枚ですね」

 俺はアイテムボックスから麻袋を1つ取り出した。

 この麻袋には金貨300枚入っている。

 あとの残りの70枚は、端数が入っている麻袋から取り出した。

「で、では確認させていただきます」

 店員さんが金貨を確認していく。

「……370枚。はい、確かにございます。こちらの風呂はご自宅までお運びいたしますか?」

「いえ、アイテムボックスに入れて持ち帰りますんで大丈夫です」

「ほう、アイテムボックス持ちとは羨ましいですね」

「この風呂がギリギリ入るくらいなのですがね」

 本当はほぼ際限なしの大きさみたいだけどね。

 嘘も方便てやつだ。

 風呂をアイテムボックスにしまう。

「ありがとうございました」

 店員さんお見送りの中、イラリオ商会を後にした。

 いい買い物ができた。

 …………ひゃっほう、念願の風呂を手に入れたぜっ!

 イラリオ商会から少し離れたところで思わず小さくガッツポーズしちまったぜ。

『お主は何をやっておるのだ……』

 フェルにそう呆れられたけど、何とでも言うがいいさ。

 何たって念願の風呂を手に入れたんだからな。

 やっぱ日本人は風呂だよなぁ。

 ということで、早速風呂入るぞ。

 とは言っても、この風呂を出して入る場所がないな。

 やっぱりここは街の外に行くしかないか。

「フェル、風呂に入りたいから街の外に行こう。そんでさ、できれば冒険者とかあまりいなさそうな森まで連れてってもらえるか?」

『街の外か、それはいいな。では、我に乗れ』






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