第九十二話 1人銀貨3枚まで
92話は少し長めになっています。
ミスリルリザードをギルドに渡す描写がないとのご指摘を受けまして、確認したところ確かになかったので91話にその部分を書き足しました。
「もうそろそろ女神様たちに供え物しないとマズいか」
飯も済ませ戻ってきた薄暗い宿屋の部屋で1人呟いた。
スイはというと既に鞄の中で夢の中だ。
貢物を買おうとネットスーパーを開こうとしたところで、頭の中に声が響いた。
『おうっ、異世界人、聞こえてるか? 早く供え物よこせや』
「この声はアグニ様ですか?」
『おう』
「今ちょうど供え物を買おうとしたところなんで、ちょっと待っててくださいよ」
『おう、それならお前がこの間飲んでたビールって酒も2本送ってくれ』
「え? お酒いいんですか? 何かこの間酒はダメって言ってたような……」
『ニンリルじゃ。今回は特別措置なのじゃ。だが2本だけじゃぞ』
特別措置ですか。
まぁ、それでいいっていうならいいんだけど。
『オッホン、ニンリルじゃが、お主に折り入って頼みがあるのじゃ。妾はお主に1番最初に加護を与えた女神だということはお主も承知してるな。だから、分かるであろう? 妾の分の甘味は増量して欲しいのじゃ。特にどら焼きはいくつあってもよいぞ。あ、この内容はくれぐれも内密にのう』
ニンリル様、何勝手なこと言ってるんですか。
みんな公平にってこの間言ったのにさぁ。
『私よ、私。土の女神キシャールよ。異世界人クン、なかなか興味深いもの売り出したじゃないのよ~。あの石鹸とかシャンプーとかトリートメント、それから効果抜群らしいヘアマスク。私にも送って欲しいのよね~。おねがーい。あ、この話は他の女神たちには内緒ってことでね』
……キシャール様、あんたもかい。
残念女神はニンリル様だけじゃなかったんだな。
『……私、ルサールカ。ご飯美味しそう。私もご飯食べたい。ご飯ちょうだい。この話は秘密だから』
ルカ様…………。
この世界の女神様ってどうなってんのかね。
残念女神ばっかりじゃん。
あのさ、内密にとか内緒とか秘密とか言ってるけどさ、みんなまとめて送ってるんだからその場でバレると思うんだけど。
「ゴホンッ。あのですね、女神様たち、みなさん内密にーとか内緒ーとか秘密ーとか言っておられますけど、みなさんの分まとめて送ってるんで、その場でバレますからね」
『ハッ、そうじゃった』
『あらっ、そういえばそうね』
『ぅ……』
『おい、こりゃどういうことだ?』
『い、いや、これはな、アグニ……』
『そ、そうよ、これは、あれよ、あれ』
『…………』
『お前らそれぞれ自分の欲しいもん要求したってことだろ? ずるいじゃねぇか。そんならオレだって欲しいもん要求するぞ』
『お主の欲しいもんって酒じゃろう? だからそれはダメだと言っておろう』
『そうよ、お酒は絶対ダメよ』
『お酒、ダメ』
『フンッ。自分たちは好きなもん要求して、何でオレはダメなんだよ? 異世界人、オレは酒が欲しいぞッ』
『だからダメだと言っておろうっ』
『そうよー』
『ダメ』
女神たちがワーワー言い合う声が頭に響く。
あー、もう、好き勝手言いやがって。
この間公平にって言ったのに聞きやしねぇんだから。
「はいはいはい、みなさんお静かに。俺、この間公平って言いましたよね?」
『いや、そのな……』
『だって、私はお菓子より美容関係のものが欲しいんだもの……』
『お菓子もいいけどご飯も……』
『菓子より、酒とつまみがいいし……』
はぁ、みんな欲しいものが違うってことね。
ならば……。
「分かりました。みなさん一人ひとり欲しいものが違うということですね。無限に何でもってのはさすがに無理なんで、1人銀貨3枚までで欲しいものを言ってください。そうすれば、それを供えますんで」
女神様たちの欲しいもの聞き入れてたら収拾つかなくなりそうだからな。
そこは予算を決めてこれ以内でってした方が決まりつくだろう。
『ぎ、銀貨3枚とは、少ないのう。もう一声頼むのじゃ』
『そ、そうよ、銀貨3枚なんて……』
『もう少し欲しいところだなぁ』
『……(コクコク激しく頷く)』
「えー、でも週に銀貨3枚ですよ。それで十分だと思うんですがねぇ。女神様たちの要望を聞いていると際限なくなりそうですし。銀貨3枚でも十分譲歩してると思うのですがねぇ、どうですか? それ以上言われるようなら、加護をお返ししますんで、このお話はなかったことに……」
『ま、待つのじゃっ。ぎ、銀貨3枚でよいぞ。銀貨3枚で十分なのじゃっ、な、なぁ皆の者』
『え、ええ。銀貨3枚で十分よ。それだけあればいろいろ揃えられそうだし』
『あ、ああ。いいぞ、銀貨3枚で十分だぜ』
『銀貨3枚でいい』
よし、言質はとった。
「じゃあそれぞれご要望を聞きます。1人ずつお願いしますよ。みんないっぺんにあれが欲しいこれが欲しい言われたらわけ分かんなくなりますから」
『なら1番にお主に加護を授け、歳も1番上の妾からじゃ』
え?ニンリル様1番年上なの?
全然見えねぇ……。
『妾は甘味を所望する。どら焼きは出来るだけ多い方がいいのじゃ』
なるほど。
ニンリル様は一貫して甘味なんだね。
太りそうではあるけど、そこはまぁ本人にまかせましょう。
ネットスーパーでどら焼きを10個とあとは適当にケーキやらプリンやらチョコレート、あとコーラやサイダーなどの甘い飲み物を銀貨3枚分になるようカートに入れていく。
「次はどなたですか?」
『年齢順に行くのなら、私よ。キシャールだけど、私が欲しいのはね、あなたが新しく売り始めた石鹸とシャンプーとトリートメントとヘアマスクよ』
「ああ、あれですか。でも、あれ以外にも、特にシャンプーとトリートメントなんかは髪質とか仕上がり具合によっていろんな種類があるんですが、あれでいいのですか?」
『え? そんなに種類があるの?』
「ええ、数十種類はあると思いますよ。よろしければ今の髪の悩みなんかを教えていただければ、キシャール様に合いそうなものを選びますけど」
『ホント? じゃ、お願いするわね。今の私の1番の悩みは髪のパサつきよ。パサパサしてまとまらなくって困ってるの。毎朝大変なのよ~』
なるほどな。
きっと、髪が傷んでパサパサなんだろう。
それだと、これかな?
ノンシリコンでいろんなオイルが配合されている同じシリーズのモイストタイプのシャンプーとトリートメントとプレミアムヘアマスク(各銅貨9枚)とかいうのだ。
残りの銅貨3枚でローズの香りの石鹸(3個入り)を買えばちょうど銀貨3枚だな。
「お次は誰ですか?」
『おう、オレだ、アグニだ。本当なら酒尽くしといきたいところだが、そこは散々止められたからな。ビールって酒を2本とそれに合うつまみ、あとは菓子でいいぞ』
アグニ様はプレミアムなビールとつまみと菓子ね。
つまみは乾物とかじゃ味気ないしなぁ。
あ、前に揚げて保管してるフライドポテトと今日揚げたメンチカツでいいか。
値段は惣菜として売ってるのを参考にして、フライドポテトは銅貨2枚、メンチカツは銅貨1枚でいいや。
あ、あとはお皿だけど戻ってこないだろうから、紙皿買ってそれ使えばいいか。
プレミアムなビール2本と紙皿一皿にフライドポテトを盛って、もう一皿にメンチカツを3枚ほど載せた。
残りはニンリル様と同じように適当に菓子を買っていく。
これでOKかな。
『次は私。お菓子とご飯』
最後はルカ様ですね。
お菓子とご飯ね。
俺たちが食ってるのみて食いたくなったんかな?
なら、メンチカツと、あと確か……あった、チーズINチキンカツがまだ残ってたからそれだな。
それからハンバーグも普通のとチーズINしたのがあったはず……あるある。
あとは、おにぎり3種と食パン6枚切りのでいいか。
価格はメンチカツは当然銅貨1枚で、チーズINチキンカツは少し大きめだから銅貨2枚、ハンバーグは両方とも銅貨1枚の計算でいいか。
おにぎりも銅貨1枚だな。
半分の銀貨1枚銅貨5枚分になるよう調節しながら紙皿に盛っていく。
残りの銀貨1枚銅貨5枚で適当にお菓子類だ。
よし、これでいいな。
ネットスーパーの代金を精算する。
段ボールの祭壇を4つ用意してそれぞれの女神様に供える物を載せていく。
「じゃ、それぞれお渡ししますんで受け取ってくださいね。まずはニンリル様ご希望のお菓子です。お納めください」
そう言うとニンリル様の供え物が消えていく。
「これがキシャール様ご所望の石鹸とシャンプー類です。シャンプー類はこちらで売ったものよりいいものなのでお試しください」
キシャール様への供え物が消える。
「そして、これはアグニ様のビールとおつまみとお菓子ですね。おつまみは私が作ったものですが、味もなかなかいけると思いますんでお召し上がりください。両方ともビールに合うと思いますんで」
アグニ様への供え物が消えていく。
「最後にルカ様ご希望のお菓子とご飯です。ご飯のおかずは、これも私が作ったものですが、おにぎりにもパンにも合うおかずなんでお召し上がりください」
ルカ様への供え物が消えていった。
「じゃ、次何が欲しいのか予算内でちゃんと決めといてくださいね」
『分かったのじゃー』
『分かったわ~』
『おうっ』
『……』
届いたもんに夢中なのか、わいわいやってる女神たちの声が聞こえてくる。
女3人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
3人じゃなくて4人だけど。
でも、ルカ様は基本大人しいしね。
ルカ様が1番年下みたいだけど、年上3人がダメダメじゃん。
まったくなぁ。
なんて思っていると、また途中でプツンと女神たちの神託が途切れた。
「ふ~やっと終わったか」
疲れたぜ。
さてと、もう寝よう。