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第十話 商人ギルドに登録

 旅の終着である国境の街ファリエールに到着した。

 街に入るときは砦から既に連絡が入っていたようで、フェルがいてもさほど問題なく入ることができた。

 入国税ほどではなかったけど、街に入るのにまた税金(俺が銀貨2枚、フェルが銀貨1枚)がかかったことがちょっと痛い。

 門をくぐると、そこにヴェルナーさんが言っていたリンデル辺境伯の使者が待ち構えていた。

「ムコーダ様ですね? 私はリンデル辺境伯様の使いのエドモンといいます。どうぞよろしくお願いいたします。実はですね、リンデル辺境伯様がムコーダ様と是非お会いしたいと申しておりまして」

 あー来たか、囲い込みの勧誘ですね。

 でも、俺はお会いしたくありませんです。

 この国もそんなに長く居るつもりないしね。

 ここは丁重にお断りをしとこう。

「いえいえ、私のような一介の旅人がリンデル辺境伯様にお会いするなど恐れ多い」

「いえいえ、リンデル辺境伯様が是非にと」

「いえいえいえ」

「こちらこそ、いえいえいえ、是非ともご一緒に」

 俺とエドモンさんが押し問答をしていると、そこにフェルが寄って来た。

『おい貴様。主は会わないといっているのが分からんのか?』

「こ、これは、フェ、フェンリル様。フェ、フェンリル様も是非ともご一緒に」

 急に登場したフェルにビビリながらも引きつった笑顔を見せてエドモンさんがそう言った。

『フンッ、小賢しい。我も辺境伯になど会うつもりはない。どうせ我の力が目的なのだろ?過去にもそういう愚かな人間はいたからな』

「い、いえいえいえいえ、そ、そんなつもりは……」

『嘘をつくな。我の力を利用しようとした愚かな人間がどうなったか知りたいか? んん?』

「ひ、ひぃぃぃぃっ」

 歯を剥き出しにしたフェルに恐れをなしたエドモンさんが悲鳴を上げて逃げていった。

「フェル、やり過ぎ」

『ああいう馬鹿者にはあれくらいやらんと懲りんのだ』

 へいへい、そうですか。

「リンデル辺境伯様の使者にあんな真似をして大丈夫か?貴族ってやつは面子を事の外大事にするから、もしかしたら何かしてくるかもしれないぞ」

 ヴェルナーさんの心配はごもっともだな。

 俺もフェルがあそこまでするとは思ってなかったし。

『心配無用だ。何かしてくるなら受けてたつまでだ』

 おお、頼りにしてますぜフェルさんや。

「まぁ、フェル様がいらっしゃるし、そこは大丈夫か」

 ヴェルナーさんがそう言うと、アイアン・ウィルの他のメンバーもうんうんと頷いた。

「貴族の私兵だけでフェル様に敵うとは思えませんわ」(フランカ)

「フランカの言う通りだよ。あたいもそう思う」(リタ)

「つうか、フェル様の相手になるのって、それこそ古竜(エンシェントドラゴン)くらいだろ」(ヴィンセント)

「それは言えてるな」(ラモンさん)

 ファンタジー世界にはつきもののドラゴン、やっぱいるんだね。

 まったく会いたくはないけど。

『む、古竜(エンシェントドラゴン)か。確かに我と対等に渡り合えるのは彼奴だけだろう』

「え? フェル様、古竜(エンシェントドラゴン)と戦ったことあるんすかっ?」

 ヴィンセントが興奮気味に食いつく。

『400年ほど前にな。そのときは引き分けたが、次は負けない』

「うぉー、すっげぇ!伝説の魔獣同士の戦いかよー、見たかったー」

「あたいも見てみたかったー」

 なんかヴィンセントとリタが盛り上がっているが、それを見てフランカとラモンさんは苦笑いしてるし。

「おいおい、お前ら落ち着け。ムコーダさんに任務完了のサインもらったら、冒険者ギルドに報告に行くからな」

 ヴェルナーさんに求められて任務完了の報告書にサインした。

 そして、預かっていたレッドボアの肉を返そうとしたら、ロックバードの素材の代わりに到底足りないがもらってくれと言われてしまった。

「最後にレッドボアの肉までいただいてしまって、本当にみなさんにはお世話になりました。ありがとうございました」

 アイアン・ウィルの面々がいなきゃここまで来られなかったぜ。

「いやいや、俺たちもいい経験させてもらったし、美味しい飯も食えたんだから文句なしの良い依頼だったよ」

 そう言ってもらえるとありがたい。

「本当にありがとうございました。それではみなさん、お元気で」

「ムコーダさんこそな」

 アイアン・ウィルのメンバーは手を振りながら去っていった。

 よしと、当初の目的は達成されたわけだけど、これからどうしようか。

 この国にあまり長居するつもりはないけど、とりあえずここでギルド登録だけはしておくか。

 ヴェルナーさんの話だと冒険者ギルドへも登録しといた方がいいってことだったけど、ここは俺の第一希望である商人ギルドを先に。

「おい、フェル。商人ギルドに行くぞ」

『む、お主商人になるのか?』

「一応希望はね。でも、冒険者ギルドにも登録するつもりだ。これからもフェルには自分の食べる分の肉は獲ってきてもらいたいんだけど、俺は解体とかできないしさ。それに、フェルが獲ってくる魔物の素材も売れば生活費の足しになるし。魔物の素材、売ってもいいよな?」

『我には必要のない物だからかまわん。それよりも、飯だけは美味い物が食いたい』

「はいはい、分かってますって」

 ったく、こいつ伝説の魔獣じゃなくてただの食いしん坊キャラじゃねぇか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 俺とフェルは商人ギルドに来ていた。

 フェルを連れて入ると、みんな驚いてちょっとした騒ぎになったが、従魔だと必死に説明してなんとかその場は収まった。

 それで今は窓口で商人ギルドの説明を受けている。

 俺を担当してくれているのは、金髪の碧眼のすっごい美人なミカエラさんだ。

 ミカエラさんから説明を受けた内容はこうだ。


・商人ギルドは国を超えた組織である。

・商人ギルドには5つのランクがある。

  アイアンランク → 行商人、屋台(店舗なしで商売をする者)

  ブロンズランク → 個人商店(街の肉屋や八百屋などの個人商店)

  シルバーランク → 小規模商会(街ではそこそこ大きな商会)

  ゴールドランク → 中規模商会(いくつかの支店を持つ商会)

  ミスリルランク → 大規模商会(多数の支店を持つ商会)

・ランクにより登録金、年会費、税金が違う。

  アイアンランク → 登録金銀貨5枚 → 年会費金貨1枚 → 税金金貨2枚

  ブロンズランク → 登録金金貨1枚 → 年会費金貨2枚 → 税金金貨4枚

  シルバーランク → 登録金金貨2枚 → 年会費金貨5枚 → 税金金貨10枚

  ゴールドランク → 登録金金貨4枚 → 店舗数に応じた金額 → 店舗数に応じた金額    

  ミスリルランク → 登録金金貨8枚 → 店舗数に応じた金額 → 店舗数に応じた金額    

・年会費と税金は入会日から1年以内に支払うこと。

・最初に登録した日を基準日として1年ごとに会員資格が更新される。年会費や税金が未払いの場合は更新されない。

・徴収された税金は商人ギルドが責任をもって各国に納めている。

・各ランクのギルドカードを紛失した場合、再発行の手数料はランクによって異なる。

・違法な商取引をした場合は商人ギルドから除名処分となる場合がある。

・最初はアイアンランクで登録して徐々にランクを上げるという方法も可能である。

・店舗や設備投資、商品の仕入れ等で困ったことがあればいつでもご相談ください。


 さすが商人ギルドだ。

 俺が知りたいと思っていたことを懇切丁寧に説明してくれた。

「それでですね、ムコーダ様はどのような形態でのご商売をお考えですか?」

 それなんだけど、フェルもいるし俺もこの世界を見て回りたいって思いが出て来たから、店舗を持つというのは今のところ無いな。

 それだとアイアンランクかな。

「私には従魔もいますし、今のところ店舗を持つ予定はないので、アイアンランクが相当かなと思いますので、アイアンランクに登録したいと思います」

「ありがとうございます。登録金銀貨5枚をいただくようになりますが、登録の手続きはこのまま進めてよろしいでしょうか?」

 懐は厳しいが、銀貨5枚なら払えないこともないからそのまま手続きを進めてもらう。

「では、こちらがムコーダ様のアイアンランクのギルドカードになります。先ほども説明したとおり紛失されますと再発行に手数料がかかります。アイアンランクの場合は銀貨8枚となっておりますので、紛失にはくれぐれもご注意ください」

 銀貨8枚か、けっこうかかるな。失くさないように注意しないとな。 

 あっと、聞きたいことがあったんだ。

「あの、お聞きしたいのですが、こちらで買取はやっておられますか?実は旅の途中に手に入れたものがいくつかあって……」

「買取ですか?ものによってになりますが、やっておりますよ」

 ものによってか、さすが商人ギルドだ。目利きがいそうだもんな。

 俺が買取ってもらいたいと考えているのは塩と胡椒だ。

 これなら多分問題ないだろう。

「それでは明日買取希望品を持ってまた来ます」

「お待ちしております。今日はご登録ありがとうございました」

 丁寧な対応に気持ちよく商人ギルドを後にしようとして、思い出した。

 今日の宿で、従魔も一緒に泊まれるところを聞くの忘れてた。

 俺は急いで窓口に戻ってミカエラさんに聞いた。

 従魔も一緒に泊まれるおすすめの宿は「跳ね馬亭」とのことだった。

 場所も丁寧に教えてくれたので早速「跳ね馬亭」へフェルと一緒に向かった。






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