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041_贈り物

「探したよう。メテオってば探知阻害系アイテム持ってるよう? もらった『万能メガネ』(ユニバーサルゴーグル)でも反応ないから手こずったよう!!」


 

 骨付き鶏モモ肉にむしゃぶりつきながら俺に文句をつけているこいつは、間違いなくガルーダだ。


「でも変装してなかったみたいだから、ちょこっと聞き込みすればすぐわかったよう。最近、ここの店に入り浸ってるちっこい魔法剣士がいるって」


 ちっこい魔法剣士で探されていたのか……俺。


「メテオさんのお友達ー?」

「マブダチだよう!!」

「冒険者仲間だ」


 ガルーダの即答に俺も即答で返す。いやまあ、マブダチでもいいんだけど。そう吹聴されるとよくないことが起こりそうな気がするんだ。


「メテオさんにはいつも贔屓にしてもらってるから、はいこれ。新メニューの試作だけど、よかったらふたりで食べてー」

「サンキュ~!!」


 モモドリが俺たちのテーブルに置いていった皿には、きつね色になった一口サイズの鶏皮があった。


「おおう! これウンまいよう!! パリパリサクサクだよう!?」 

「パリパリサクサクだと? ……鶏皮チップスか。これは飯でも酒でも持ってこいだな!!」

「いいでしょー? 鶏油を作るときにいっぱい出る鶏皮ー」

「俺にもエール一杯よろしく」

「あらー メテオさん急に元気になったねー お待ちー」


 俺とガルーダはしばらく鶏皮チップスを前に、無言でエールと鶏皮を交互に口に入れる仕事に専念する。


「あいかわらずいい仕事をする……モモドリ。鶏油を完全に出し尽くしたあとの鶏皮か。鶏皮も火にかけすぎると風味が落ちるし、皮も縮んで固くなる。ほどほどのところでオーブンで焼いてるな? 味付けは乾燥させたガーリック粉と黒胡椒と塩。鶏皮をガチガチにするのは誰でもできるが、このサクサク感はなかなか出せるもんじゃない」

「あいかわらず気持ち悪いメテオの食レポだよう」

「いやー メテオさんの感想はためになるよー こっちがかけた手間を汲み取ってくれるから嬉しくなっちゃう」


 そういってモモドリは布巾で手を拭き、前掛けをはずしてすまなさそうに片目をつぶってみせた。


「ちょっと夜に使う香辛料買い忘れたから買ってきたいんだー 悪いけど十分二十分お留守番しててもらっていいー?」

「ああ、うん。悪いな、気を使ってもらって」

「お酒が足りなかったら自分でついでねー」


 俺たちのことを察してくれたみたいだ。しっかり扉の向こうにある『営業中』の木札がひっくり返され『止まり木中』にしてくれた。『止まり木中』はおそらく『準備中』みたいな意味だ。


泥棒都市(ブラックプレーン)でこれだけ気のつく店はなかなか見つからないよう。メテオのうまいものセンサーはレベルアップしているよう」

「――ああ」


 レベルアップ。

 今まさに、魔術師スキルの頭打ちになっている俺にクリティカルな言葉だ。


「んで、ガルーダ。どうしてまた俺を探して?」

「リーズンからの頼みだよう。世界滅亡の危機だからすぐゲヘナ火山に来てほしいって」

「おい! もっと順を追って話せ!! ゲヘナ火山ってことは赤龍の住処だろ!? 《精神感応/テレパシー》も通じなくなってるし、リーズンは無事なのか!? まさか死んだとかいわないよな!?」

「落ち着くよう! “あわてる乞食は貰いが少ない”。盗賊ギルドの名言だよう」

「誰が乞食だ!!」


 ガルーダの頭をはたく。

 出会って早々、こいつに遊ばれている気がする。

 けど、ひさしぶりに落ち着く流れだ。


「ま、おいらもよくわからないんだよう。リーズンがそうメテオに伝えてっていってただけで」

「世界の滅亡っていわれて何でそう流せるんだ……」

「流してるわけじゃないよう。おいらもゲヘナのスネを切ったし、大活躍だったんだよう!!」


 ガルーダの話によれば、ウォルスタを出て各地を回りながらゲヘナ火山にたどり着き、なんとか赤龍ゲヘナを倒すことはできたが――


「リーズンがイーフリートと融合したまま元に戻れない。と」

「人里にも降りられないからっていうんで、おいらがメテオを探し回っていたんだよう。ゲヘナを倒すときに、空飛ぶ絨毯(フライングカーペット)無限の革袋(インフィニティバッグ)もみーんな燃えちゃったから大変だったよう」


 リーズンとイーフリートが融合したまま元に戻らない。


 確かにリーズンに渡した俺作『憑依融合』(スピリットフューズ)は精霊と一時的に融合することによって、驚異的な力を出せるような作りにしてある。

 だが使えるのはわずか八回。一度の効果は三分しか保たない、パワーブースト系アイテムだったはず。


 ガルーダもそこのところはわからないとのことだが、リーズンとイーフリート。そして事によっては同行していた時の精霊クロックもかかわっているのかもしれない。


「いずれにせよ、異常事態ってわけか……」


 ただ、リーズンが自我を保った上で『世界の滅亡』とまでいって、ガルーダに俺を探させていた。

 もしかしたらこれはとんでもない経験点になるかもしれない。

 リーズンがガルーダを使いに出してすでに半年近い。今にも危ないというわけではないだろうが、俺の停滞したレベルアップのためにも、ここは急行すべきだろう。


「わかった。すぐゲヘナ火山に向かう」

「これでおいもミッションコンプリートだよう」

「えっ。ガルーダは来ないのか?」

「おいら、この泥棒都市(ブラックプレーン)が気に入ったから、しばらくはここで遊んで暮らしているよう」


 鶏皮チップスの残りをエールで流し込んだガルーダ。

 いや、お前が気に入ったのはモモドリの飯だろ。絶対。


「それにたぶん。おいらが行っても何もできない気がするよう。ドラゴンならともかく、あのリーズンとメテオがいるならすることないと思うよう」

「ドラゴンならともかくってお前なあ」


 俺もリーズンもそれ以上にアレってことだろ。それは。


「ハムもマリアもアーティアもみんなウォルスタにいるんだよう? だったらオイラはここからウォルスタにまったり向かうよう」

「自由だなあ、お前は」

「もちろんだよう! 気が向かなかったらまたどこかにぶらぶら旅するよう」


 おそらくハムとアーティアはウォルスタに骨を埋める気でいる。

 もともとあのふたりはウォルスタを(つい)の棲家とする気でいたと思う。

 アーティアは商業神の神殿を。ハムはウォルスタを守る自警団の長として。


 俺の問題が解決したらマリアージュはしばらく俺とウォルスタで育児だろう。

 その後は家族とどこか好きなところに旅をして過ごす。


 リーズンはなんだかよくわからないことになっているが、あいつも自分の道を進むに違いない。

 ガルーダも好き勝手冒険し歩くようだ。


「そっかあ。『流れ星』(シューティングスター)もついにそれぞれの道を行くようになるか……」

「なにいってるんだよう。もともとおいらたちは、それぞれテキトーに冒険して回っているだけだよう」

「お前とマリアージュはそうだうけど」

「そういやメテオ。マリアとデキたんだよう? 双子が産まれたばかりのパパがこんなところでひとり油を売ってるのに、感傷に浸るとかズルっこだよう?」

「うっ、それをいわないで……」


 めちゃくちゃ痛いところを突かれた。勘弁して。


「遊星マリアージュもついに身を固めたんだよう…… そのぶんおいらが派手に動いて『流れ星』(シューティングスター)の名を広めてやるよう!!」

「俺たちの築いた名声を壊すのはやめるんだ!!」

「後輩たちにはまだまだ負けないよう!!」


 後輩。エステルたち『北極星』(ポールスター)もいずれはウォルスタを。ユルセール大陸を離れて、いろんな場所を旅していくんだろうな。

 俺は。俺たちはもう手を貸すことができないだろうが、あいつらも個性派揃いだ。

 生きていればまたどこかで会うだろう。

 そのときに土産話しをどれだけプールできるかな。


「メテオだってしばらくはソロで冒険者しているんだよう? しばらくはマリアに育児を押し付けて」

「押し付けるとかやめて。パパはやることやったらすぐにウォルスタに帰って新婚生活の続きをするんだから……」

「ムリムリ。メテオはなんだかんだで根っから根なしの才能あるし、マリアだって子供の首が座ったらどっかに行きたがるんだよう」

「……そんな気はする」

「リーズンはあの姿だと冒険とかどうなるかわからないよう。本人はまんざらでもないって感じだったけど」

「今、リーズンの格好ってどんななんだ?」

「イーフリートの身体にリーズンの首をすげ替えた感じだよう」

「完全に魔物じゃんか」


 なんか俺の想像よりもリーズンが大変な事になっているようだ。

 けど、本人がまんざらでもないっていうならそれはそれで……


「そうだ。メテオにこれ一本あげるよう」


 ふと思いついた感じでガルーダが腰に吊るしていた大振りな短剣をテーブルに置いた。


「結婚と出産祝いだよう!!」

「おい。これお前のメインウエポンだろ」


 机に置かれたのは猫の爪(キャットクロウ)と呼ばれる、ガルーダが二本持つ短剣だ。

 短剣といっても小柄なガルーダが持つと小剣(ショートソード)ほどもある。

 攻撃が当たりやすく、異様にクリティカルが出やすい短剣。

 テーブルトークRPG『アャータレウ』においては、盗賊職にとってもっとも使い勝手がよいとされる魔法の短剣だ。


「おいらまだ『やっつけ丸』があるから大丈夫だよう。赤龍のスネを切った縁起のいい『すねギロチン』のほうをあげるよう」


 ガルーダは二本の猫の爪(キャットクロウ)にそう名付けている。命名したのは俺がもといた世界のプレイヤー、御影によるものだが、俺はそのセンス。嫌いじゃなかった。


「メテオのそのでっかい魔法の剣だと小回りがきかないよう。いい短剣を一本懐に忍ばせておくのがいい冒険者だよう」

「……ありがとう。貰っておく」


 物への執着が非常に強い種族といわれるリトルフィート。だが、本当はそうではない。手に入れることが好きなのであって、アイテムを手放すことにはあまり抵抗がない。

 聞けば赤龍ゲヘナとの戦いで、ほぼすべての装備を失ったガルーダ。

 これであと身につけている魔法の品は、俺があげた『万能メガネ』(ユニバーサルゴーグル)。誰かをおちょくることにしか補正効果を発揮しない『おちょくりのアミュレット』。そして『やっつけ丸』だけしかない。


「また何か面白いものを見つけたら、どこかで会ったときに教えてくれればいいんだよう」

「わかった」


 ガルーダから『すねギロチン』を受け取り、俺は懐にそれをしまった。

 遠慮するのも筋が違う。

 それに、今の俺にとって『すねギロチン』は近接戦闘では有効な武器となる。

 もったいないからできないだろうが、投擲にだって使える。

 もし、魔法が使えない状況になったら『七つの護符剣』(セブンタリスマン)とともに、強力な味方になってくれるだろう。


「ありがとう、ガルーダ」

「結婚と出産祝いで今日は飲むよう!!」


 ガルーダが空のジョッキを掴んだところで、扉からモモドリが絶妙のタイミングで帰ってきた。

 なにやら美味そうな食材を抱えて。

 ――出発は明日にしよう。

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