第百四十幕 ~キール要塞の攻防 その参~
「うちの者が迷惑でもかけたか?」
「──いや、今回はこちらが全面的に悪い」
ソドムに目を向けたローゼンマリーは、くつくつと笑った。
「あいつか。人選を誤ったのではないか?」
「戦いは長期戦になると俺は見ている。良い駒は温存しておかねばならない」
「なら妥当だ。今は互いに様子見といったところだからな」
次の瞬間、王国軍のカタパルトから放たれた石が城壁の一部をふきとばすと、飛沫がグラーデンたちのところまで飛んでくる。
「お怪我はッ!」
「心配は無用だ。お前たちは戦いに集中せよ」
「はっ!」
兵士が戻る中、グラーデンは破壊された城壁に視線を移した。
「──それにしても意外だな。王国軍のカタパルトがあれほどの性能を秘めているとは。これは認識を改めないといけないといけないな」
ローゼンマリーは笑った。
「なにがおかしい?」
「違うんだ。王国軍のカタパルトがあれほどの能力を発揮しているのは、うちらの技術を流用している結果だ」
「どういうことだ?」
「以前の戦いで鹵獲されたんだよ。見たところ多少の改良はしているみたいだが」
「……そんな報告は受けていないぞ」
開発費に安くない金をかけている。ローゼンマリーの言葉は到底聞き流せる類のものではなかった。
「そりゃそうだ。言った覚えもないからな」
悪びれずに言うローゼンマリーに、グラーデンは舌打ちした。
「みすみす敵に最新技術を提供してやったのか。随分とまた豪気なものだ。その話を技術者が聞いたらさぞ感涙することだろうよ」
グラーデンが大いに皮肉を込めて言うものの、どうやら暖簾に腕押しだったらしい。ローゼンマリーは小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「技術なんてものは遅かれ早かれ流出する。それが兵器なら尚更だ。そう目くじらを立てることでもないだろう」
「安易にカタパルトを持ち出さなければ、今こんなことになっていないのはわかるな?」
「それは結果論に過ぎない。後から文句を言うことなら誰にでもできる。──それが雑兵でもな」
最後は辛辣な言葉を吐いて去っていくローゼンマリー。グラーデンは苦々しく思うも、そのまま彼女を見送った。根本的に考え方が違う以上、いくら口論を交わしたところで無意味なことは明白。なにより三将同士の口論など兵士を不安にさせる以外の何物でもなかった。
グラーデンは城壁の兵士に向けて、声を張り上げた。
「王国軍に物資の余裕はない。時間が経てばたつほど我々は勝利に近づくと知れ!」
グラーデンの鼓舞に城壁に入る全ての兵士が勇ましく応える。
戦いはこれから本格化しようとしていた。
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