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第7話 三人でお風呂

『白日の宴』本部。地下三階、大浴場。


 脱衣所で服を脱いだマオは鏡に反射した自分の体を改めて眺めた。


「にしても……。あまりに幼いのぉ。この体、ほんとに女か? 女というのはもう少しデコボコしとったような気がするが……。お? なんじゃポルン! お主なかなか大きい胸をしとるではないか!」

「え? そ、そうかなぁ」

「うむ! 実に発育の良い体じゃ! ちょっと触らせい」

「えっ!? ちょ、ちょっとマオちゃん!」

「むむむ。思っとったよりも随分柔らかいのぉ。いやしかし、程よい弾力もあるようじゃ」

「……ちょっと、マオちゃんってば!」

「それに比べてわしの胸は小ぶりじゃのぉ……。揉んでも全然柔らこうないし……。段々みすぼらしい気分になってきたわい」


 ゴツン。


「あいたっ! リュカ! お主なんでわしを殴る!」

「ポルンが嫌がってるだろ!」

「むむ? なんじゃ? 胸を揉まれるのは嫌なことなのか?」

「当たり前だ」

「じゃあ、なんのためについとるんじゃ、これ?」

「……そ、それは……。いろいろあるんだよ。いろいろ」

「いろいろ?」


(むぅ。魔族に性別などというもんは存在せんからようわからん。人間は男と女で戦い方が違っておったが、胸も何かに使えるのか?)


「ポルン。すまなんだな。わしの考えが至らなんだ」

「う、ううん。もういいよ。気にしてないから、大丈夫! それよりほら、さっさとお風呂入っちゃおう!」

「うむ」


 ガラガラとすりガラスの扉が開くと、むっと白い湯気が立ち込めた。

 だだっ広い浴場は、岩が埋め込まれた造りになっていて、いくつもの効能を持った湯がそれぞれ仕切られて点在していた。


「ほぉ。ちと小ぶりじゃが、なかなかよい眺めじゃ。地下とは思えんほど風情がある」

「小ぶり? これ、結構大きなお風呂なんだけどな……」

「フハハハハ! わしが以前住んでおったところの風呂はこれとは比べ物にならんほどひろかったぞ!」

「本当!? マオちゃんどこに住んでたの!?」

「ここよりずっと遠いところじゃ! フハハハ!」


 壁に取り付けられたシャワーの前でリュカが手招きをした。


「おーい、二人とも。さっさと体洗って風呂入るぞ~。うわ……。足とか泥だらけだ」


 リュカは、近くまでトコトコ歩いてきたマオを小さな椅子に座らせた。


「どうせだからあたしが洗ってやるよ。お前まだ小さくてシャンプーが目に入ったくらいで泣いちゃいそうだしな」

「むむむ。なんじゃその言い草は。だがまぁよい。この体、髪の毛が長くて洗いづらそうじゃしな」


 ゴシゴシ。


「うわっ! なんか泡が黒くなるんだけど! どんだけ汚れてたんだよ!」

「む? そうか? 一応湖で洗ったんじゃがのぉ」

「リュカちゃん! 私も一緒に洗うよ!」


 その後、何度も何度もシャンプーを繰り返し、ようやくマオの髪を洗い終わった。


「はぁ、はぁ……やっと綺麗になった。つーか、お前、赤毛だったんだな。全然わからなかった」

「む? おぉ、ほんとじゃ!!」

「どうしてお前も驚くんだよ……」


 ポルンが持っていたタオルで石鹸を泡立てた。


「次は体も洗ってあげるね」

「うむ。よきにはからえ」


 ゴシゴシ。


「ふ、ふはは! ちょ、ちょっと、くすぐったいわい!」

「ちょっとマオちゃん、動かないで!」

「そ、そんなこと言われても! ふははははは! む、無理じゃ! あはははは!」

「マオちゃんって意外と敏感肌なのかなぁ。はい、次背中向けて」

「くふふ……。せ、背中?」


 ゴシゴシ。


「……んっ!」

「え?」

「せ、背中は……なんというか……変な感じじゃ」

「くすぐったい?」

「い、いや……んっ! な、なんというか……その……変な感じなんじゃ」

「変な感じって?」

「よぉわからんが、ぞくぞくする」

「へぇ。なんだろう? 背中痒かったのかな?」

「んっ!」

「はい。おしまーい!」

「……む? なんじゃ? もう終わったのか?」

「え? うん。綺麗になったよ」

「……むぅ。ならばよいが」


 マオは物足りない気持ちを払拭しきれないまま、となりで体を洗っているリュカに目を付けた。

 ハーフビーストのリュカは、尻尾を目一杯泡立てている。


「お主、ハーフビーストじゃろ?」

「そうだよ。悪いか」

「獣の部分は耳と尻尾だけか?」

「あぁ。あと五感が少し敏感なくらいだな」

「耳は人間の耳はなく、犬の耳だけなんじゃな」

「これは犬じゃない! 狼だ!」

「似たようなもんじゃろ」


 ピクリと動いたリュカの尻尾に、マオはすかさず反応した。


「よし。今度はわしがその尻尾を洗ってやろう」

「いいって! あたし尻尾敏感だしさ!」

「敏感? ぞくぞくするということか?」

「……まぁ、そうだよ」

「なら一層力を込めてやってやろうぞ!」

「なっ!? お、おい! やめろって――」


 ゴシゴシ。


「ちょ、ちょっと……マオ! ほんと……」

「むむむ。ぞくぞくしとるか? わしも背中を洗ってもらっとった時、ぞくぞくしたぞ」

「い、いや、お前、そんな丁寧に……」

「ここか? この付け根の辺りか?」

「…………」


 その後、一頻りリュカの体を洗い終えたマオは笑顔で額の汗を拭った。


「うむっ! どうじゃわしの洗いは!」

「…………その」

「む? よく聞こえんぞ?」

「……ま……」

「ん?」

「………………………………まぁまぁかな……」

「うむ?」


 先に湯船につかっていたポルンが二人を呼んだ。


「ねぇー! いつまで体洗ってるのー! 早く入りなよー!」

「おぉー、今行くわい。さぁリュカも一緒に行くぞ。今度また洗ってやるから楽しみにしておくがいい!」

「…………………………うん」


 その後、三人は仲良く入浴し、新しい服に着替えて大浴場を後にした。





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〇本日の献立

・リュカ・ヴァーンノイズ:狼と人間のハーフビースト。『白日の宴』に所属している剣士見習い。普段はポルンと一緒に雑用をこなしながら剣士の修行に明け暮れている。レアドロップアイテムで一攫千金を夢見ている。

 マオへの好感度が少し上昇した。


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