決戦(ルベタ編⑥)
ケパーダの槍を氷槍で捌き、氷槍の攻撃を槍が受け流す。そんな攻防が続く。ここにきてケパーダの槍術の技が冴えてきたような気がする。窮地に追い込まれたことで生存本能が高まった結果なのだろうか。
『ほほぉ。ザコはザコなりに少しは粘るではないか』
リバス様、どことなく愉しんでるよね。こっちはけっこう必死だっていうのにさ。
不意に左手をかざすケパーダ。何か仕掛けてくる。警戒してすぐに後方へと飛んで距離をとる。直後爆発が発生した。またしても爆発系下位魔術だ。しかし、今回は防御魔術が間に合ってダメージの軽減に成功した。
今度はこちらの反撃だ。ボクも左手を集めた魔力を使って火炎系下位魔術を撃つ。火の玉はケパーダの右頬を掠めて軽度の火傷を負わせる。
ケパーダは両目に怒りを宿らせると再び左手をかざして神風系中位魔術を放つ。咄嗟に大賢王の杖で真空の刃を受け止めた。魔術の勝負では相手に分があるようだ。
それなら接近戦に持ち込めばいい。《俊足》で近づき氷槍を振るう。ケパーダはそれを槍の柄で受け止める。ボクは《剛力》を使って腕力を強化して氷槍を振り抜く。力任せに防御をこじ開けてケパーダを仰け反らせたが手傷を負わせることはできなかった。
「このぉ!」
ケパーダが左手から放った氷塊系中位魔術がボクの右脇腹を掠める。
ボクは身体を時計回りに回転させながら軽く跳躍する。氷槍が敵の首を狙って閃く。それを察知したケパーダは上半身を後ろに反らせてかわす。が、ボクは回転力をそのままに回し蹴りへと繋げた。ボクの左足がケパーダの右肩をとらえる。
「ぐっ…」
よろめいて片膝をついたケパーダ。そこへ氷槍の刃が迫る。ケパーダは床を強く蹴ってボクの頭上を飛び越えていく。背後をとるつもりなのだろうが、そうはさせない。すぐさま身体を半回転させて氷槍を構える。
「これでもくらいな!」
空中で身体を反転させ、既に左手をかざしていたケパーダが火炎系下位魔術を射つ。
「くっ!」
危ない! ボクは火の玉を氷槍で両断にする。直後、火炎系下位魔術の炎の向こう側から槍が飛んできた。
「ちっ!」
どうにか槍をかわす。
視線を移した先には右手をかざしたケパーダの姿があった。体勢を立て直す間もなく火炎系中位魔術がボクの胸に突き刺さった。衝撃の後、身体が炎に包まれてしまう。
「あちちちち!」
床を転げ回って鎮火する。
『相手が格下と油断したか? あの程度の攻撃も防げぬようでは魔王の紋章を狙う輩に殺されてしまうであろうよ』
リバス様のダメ出しを聞きながら立ち上がる。そこへ槍を拾い上げたケパーダがその穂先を突きだす。横っ飛びにかわして氷槍を振るう。だけど、わずかに届かない。
ボクとの距離をとったケパーダは槍を構え直して鋭い視線を向けてくる。ボクも氷槍を構えて攻撃に備える。
暫しの静寂のあと、ケパーダが先に動く。槍の刃先を向けて猛烈な勢いで突撃してくる。速い! 今までの比じゃないぞ!?
『やつも《俊足》を修得しておるようだな。おそらくは使うタイミングを見計らっていたのであろう』
間一髪で回避したところにリバス様の解説が入る。ケパーダも《俊足》を使えるとは考えもしなかった。
「くそっ!」
攻撃をかわされることを想定していなかったのだろう。ケパーダは顔をしかめる。しかし、すぐに攻撃体勢を整えて突進してきた。今度はこちらからも動く。互いに相手との間合いを詰めながらそれぞれの武器で攻撃にでる。
体をひねって回転力をつける。迫るケパーダの槍がボクの右頬にを傷つけていくがかまわず氷槍を穂先を突きだした。
「がはっ!」
氷槍がケパーダの脇腹をえぐる。ヨロヨロと後退したケパーダは槍を杖代わりにしてどうにか立っている。
ケパーダは忌々しそうな視線をぶつけながら槍を構え直す。が、そこまでだった。ボクが振るった氷槍がケパーダの首をはねた。宙を舞う頭部が床に落ちるのと同時に残された体が崩れる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふぅ……」
戦いを終えてため息をつく。思いのほか苦戦してしまった。懐からポーションを取り出して飲み干す。痛みと疲労感がやわらいでいくのを感じる。
『このような調子でアークデーモンとスヴェインを討つことなどできるのか……』
「大丈夫ですよ。ボクは勝たなきゃいけないんです!」
『思いだけで勝てるものでもあるまい。せいぜい返り討ちにあわぬようにすることだな』
正直にいえば、ボクだって不安がないわけじゃない。でも、ボクの戦果にレミィやみんなの未来がかかってるんだ。敗けるわけにはいかない。改めて勝利への決意を固めると地下室を後にした。
いつも読んでくださってありがとうございます。