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決戦(拠点洞窟防衛戦①)

 「やはりルベタの事が心配かね?」


 領主邸の方を祈るように見つめているレミィに声を掛ける。振り向いた彼女の表情からは心情が伝わってくる。きっと胸が張り裂けんばかりにルベタの事を気にかけているに違いない。


 「……はい……。もちろんルベタの事は信用しています。だけど、たった一人で乗り込むなんて無茶なんです!」


 瞳から一筋の涙が頬を伝って落ちる。


 「そうだね。本来、魔王である彼にはこの争乱は関係のない話なのだからな。巻き込んでしまったことについては心から申し訳なく思っている」


 もちろんトゥナムの本心からの言葉だ。


 「……魔王ってなんなんでしょうか?」


 レミィが発した言葉の意味がわからず黙して次を待つ。


 「私、魔王って強くて残虐で怖いっていうイメージでした」


 「多くの人間が同じように考えているだろう

ね」


 トゥナムは静かに頷き、話を続ける。


 「でも、ルベタは違った。いつだって弱い人たちの事を考えて守ろうとしてくれる。自分だって傷ついてるのに命懸けで守ってくれるんです……」


 「たしかに。あれほど弱者の立場に立って行動できる者は多くない。やはり彼の生い立ちがそうさせているのだろうな」


 何気なく言ったトゥナムの言葉にレミィが強く反応する。


 「トゥナム様は何かご存知なんですか!?」


 「ああ。自らの死期を悟ったランツァ村長が教えてくれた。しかし、この場でわたしの口からそれを話すことはできない」


 「どうしてですか!?」


 「ルベタが話さない以上はわたしが勝手に話すわけにはいかないからね。全てが終わったら直接訊いてみるといい。きっと話してくれるだろう」


 「……そうですね。ルベタが戻ってきたら訊いてみます」


 レミィがニコリと微笑む。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「トゥナム様、現在のところ異常はないようです」


 洞窟周辺の巡回から戻ったラルバンが報告にやってきた。


 「そうか。ご苦労様だったね。少し休んでくれ」


 「いえ、そうはいきません。我々のためにルベタが危険な戦いに身を投じているのです。そんな状況で休んでなど!」


 なんともラルバンらしいである。だが、トゥナムも引き下がらない。


 「だからこそだ。ルベタが単身で乗り込んできたとわかれば、スヴェインは主力をこちらへ差し向けてくる可能性が高い。そうなればこちらは圧倒的に不利な戦いとなるのは必至だ。わたしたちが敗れ、捕らえられればルベタの足を引っ張ることにもなる。それだけはなんとしても避けなければならない。わかってほしい」


 「しかし!……トゥナム様にそう言われちゃあしょうがねぇか。時がくるまで体力を温存しておくとしましょう」


 ラルバンが説得に応じたことに安堵する。トゥナムは立ち去るラルバンの背を見送りながら腰のレイピアの柄をそっと撫でて静かに闘志を燃やすしていた。

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