火山のボス
「キィー!」
「キキィー」
「「キィキ!」」
「「「ヴォォォォン!」」」
「グルン」
「グルル」
「みゃあ!」
小鬼たちと共に走っていると、徐々に他の小鬼たちや車妖怪、そして──
「ふぉっふぉっふぉっ、久方ぶりですのぅのう、主人殿。ようこそおいでなすった」
一人の老婆……に見える妖怪で火山のボスである──
「ああ、久しぶりだなターボババァ」
ターボババァと合流する。
ターボババァは以前レース相手を欲した車妖怪たちの為に、朧車といっしょに作った後発の妖怪なのだが、現在は火山のボスに就任している。
「暑い……否、熱い場所が苦手な主人殿がここにいらっしゃるとは珍しい。どうかなさったのかのぅ?」
「ちょっと前に水奈がここに来てな、そのタイミングで侵入者が来たから追いかけているんだ」
ターボババァは並走しながらここに来た目的を訊いてきたので、簡単に説明する。
「儂らも侵入者排除の為に向かっておりますが……お嬢は何故こちらへ? 主人殿程ではありませぬが、お嬢も火山が苦手だったはずですじゃ」
ターボババァは水奈が火山に来たことに疑問を持つ。水奈は熱で身体を構成する水分が蒸発してしまうので、俺や六花同様あまり火山には来ないからだ。
「…………たぶん、俺を避けてるからだろうな……」
それなのに水奈がここに来たのは、水奈以上に俺がここを苦手にしているからだろう。
「………………主人殿はお嬢に何をしたのですじゃ?」
「…………黙秘する……が、嫌われるようなことはやってない。
それよりも侵入者のレベルが高いから水奈だけだとまずいんだ」
「……主人殿がそう言うのなら、深くは聞きませぬが……。
しかし、それならば疾く参りましょうぞ。先に失礼しますじゃ」
「あ、いや……」
ターボババァはそう言うと俺たちを置いて、猛スピードで駆け抜けて行った。
「お前だけ先に行っても意味ないだろ……」
「キィー」
俺は見る見るうちに小さくなっていくターボババァの後ろ姿を見ながら呟き、同じ朧車に跨がる小鬼も同意する。
なぜターボババァだけが先に行くことが意味がないのかと言うと、ターボババァは強くないからだ。いっそ弱いと言い切ってもいい程に。
ボスなのに弱いことに疑問を持つかも知れないが、火山のボスは俺が決めたわけではない。火山に棲む妖怪たちが独自に決め、またその決め方がかなり独特だったのだ。
その決め方とはレース。
火山に棲む奴らの価値観では速い奴ほど偉い、ということらしく一番速い奴をボスに……つまり、火山で一番速いのはターボババァだったというわけだ。
「とりあえず二次被害が出ないよう各自全速力で向かってくれ」
「「「キィー!」」」
「「「ヴォォォォン!」」」
「グルン!」
「グルル!」
「みゃあ!」
ターボババァはスピード極振りの撹乱タイプなので大丈夫だとは思うが、とりあえず急いで追いかける。
都市伝説タイプの妖怪の登場です
侵入者の元ネタのヒント
それぞれ、北欧・英国・聖書の物語の登場人物とフランスの歴史上の人物が元ネタです