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ベス

すみません、昨夜は力尽きて寝てました

「あ~、ごめんね、ご主人……」


「何を謝る? 本当に水奈を利用するつもりで近付いたのなら、謝っても──」


 赦さない、と続けようとしたところで──


「そっちじゃなくて……」


 一本踏鞴が遮るように口を挟み、部屋の出入口を指差しながら──


「水奈ちゃんに会ってないのって嘘なんだよね……」


 と言う。

 その指先が指し示す方に視線を向けると、そこには水奈の姿があった。


 だが、その水奈の様子がおかしい。

 プルプル小刻みに震えたりしているのはともかく、身体の色が明らかにおかしい。普段は青の半透明なのに対し、今は朱の半透明……スイナ・ベス?

 ……いや、ベスって何だよ?


「……水奈?」


「!?」


 普段と違う色合いに疑問の声が口からこぼれると、その声を聞いた水奈は俺の視線に気付き……逃げ出す。


「いったいどういうことだ?」


 いまいち要領を得ない事態に、事情を知っているとおぼしき一本踏鞴に疑問をぶつける。


「う~んとね、まぁさっきも言ったけど、水奈ちゃんと会ってないのは嘘だったんだけどね。

 出会ったときに水奈ちゃんが物凄く落ち込んでる感じだったんだよ。

 でさ、やっぱりあんな小さな娘が落ち込んでたら相談に乗ってあげなきゃ、って気持ちになるよね?」


 結構面倒見がいいんだな……末っ子だけど姉御肌なのか?



「でさ、いろいろ話を聞いてたらどうもご主人に嫌われた、って言うんだよ」


「は?」


「あ~、やっぱり水奈ちゃんの誤解だよね~」


「もちろん……っていうか、何でそんな誤解してんだ?」


 嫌ってるなんて態度、微塵も取ったことないぞ?


「別にご主人がどうこうって訳じゃなくてね、水奈ちゃんが最近ご主人の事を避けてるからそう思ったらしいよ」


 あ~、なるほど……。


「で、まぁ……久遠さんたちも散々誤解だ・嫌いになんてなってない、って言っても水奈ちゃんは全然信じなくてね、それならご主人に直接聞いてみよう、ってなったの」


 水奈って結構ネガティブな性格なんだな……って──


「直接聞いてみよう、って直接聞かれてないぞ?」


「うん、まぁ提案したはいいけどさ、水奈ちゃんが直接聞いてもまず嫌いなんて言うわけないし、嫌いじゃないって言っても水奈ちゃんが信じない可能性があったから、とりあえず水奈ちゃんを隠して、直接ご主人に『水奈ちゃんをどう想っているか』を聞くんじゃなくて、ちょっと搦め手で、

『如何にご主人がスイナちゃんを大事に想っているか』

 を水奈ちゃんにみせる方向にシフトしたんだよ」


「で、その結果がさっきのやりとりになるのか……」


「うん、予想以上だったね。

 や~、あたいも身体を張った甲斐があったよ」


 いや、身体を張ったって、張りすぎだろ。俺、ガチで消そうと思ってたぞ。


「でも水奈が比喩表現じゃなくて本当に朱くなったのは何でだ?」


「さあ? 水奈ちゃんって結構特殊な水妖だからちょっとわかんないよ。一般的な水妖はあんなに感情豊かじゃないし。

 照れが限界突破したからとかじゃない?」


 特殊な水妖ねぇ……まぁ、確かに特殊進化だったけど感情はわりと最初から豊かだった気がするが……。

 今はもうやってないけど、前にシフト制でやってた時、当番に当たってないときはよくマスタールームに遊びに来てたし。


「とりあえず水奈ちゃんの誤解は解けたようだし、よかったよかった」


「いや、別の問題が発生してるだろうが……」


 むしろ厄介になったような気さえする。

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