お説教再び
さて、部屋に戻ってきたわけだが……。
「あの~、何で正座させられているんでしょうか?」
「主さま、心当たりはないのですか? 胸に手を当ててよ~く考えてみてください」
どういう訳か六花に正座させられている。
……一応俺、このダンジョンのマスターだよ?
それに胸に手を当てて、ってここで六花の胸に手を当てるなんてネタは……やめとくか。マジギレされそうだ。
「思いあたることはないが……」
真面目に考えてみても思いあたることがない。
胸に手を当てても心臓が元気にビートを刻んでいるくらいだし、強いて言うなら雷ヶ原が修羅場になったことくらいだが、それで六花がここまで怒るのは考えにくいし。
まさか俺の心臓が元気にビートを刻んでいることが不満? ……って、そんなわけないか。
………………ないよね?
「あのですね、主さま
主さまは今戦えないのですよ!
そんな身体で戦闘中の階層を出歩くだなんて何を考えているのですか!?」
あ~、そういやそうだっけ? すっかり忘れてたわ。
「一応護衛にツバキとナギサを連れて……」
「あの子たちはまだ実戦を経験していない子供です。護衛に選ぶならせめてコクホウさん達ボスの方々かわたし達にしてください!」
いや、子供て……六花も子供だよな。
その後も説教が続き、解放される頃には脚が限界を突破する寸前まで追い込まれていた。
前も思ったが、泣きながら説教するのは卑怯だと思うんだ。だって泣かれるともう何も言えないんだもん。
「あ、ご主人、お説教終わった? ……てかダイジョブ?」
「なんとか、な」
生まれたての仔鹿ばりに脚をガクガクさせながら立ち上がろうとしていると、一本踏鞴が声をかけて来た。
「あの、主さま……そちらの方は……」
六花は俺たちが戻って来た時には俺に集中していて一本踏鞴たちには気付いていなかったらしく、一本踏鞴について聞いてくる。
「ああ、さっきの戦闘で少し生産について思うところがあってな、それで3鬼ほど作成したんだ。
そのうちの1鬼の……」
「一本踏鞴だよ、よろしくね」
「あ、はい。
わたしは雪娘の六花です。こちらこそよろしくお願いします」
一本踏鞴は気さくに、六花はぺこりと一礼してお互いに挨拶をする。
……先輩後輩の立場的に挨拶の仕方は真逆じゃなかろうか? ……まぁ性格の違いか。
「あとは久遠たちにも紹介しとかないと……」
「あ、そっちはもう済ませたよ」
「え? いつの間に?」
「ご主人がお説教されてる間に久遠さんと、刹那さんにはもう挨拶したよ。さっきまで軽く案内してもらってたし」
……軽くとはいえ、ダンジョン案内が可能な時間説教されてたのか……。
まぁ、俺がいない限り逃げることはないから、俺は会わない方がいいよな?
「できれば、その娘とは仲良くなりだいんだよねぇ……」
「何でだ?」
仲良くなるのは構わんが、顔を合わせてもいないのに殊更仲良くなりたい理由がわからんが?
「さっきも言ったじゃん、鍛冶には水が大切って。
それに炭を作るときに木を手に入れたら乾燥させないといけないんだけど、それって何ヵ月も時間がかかるんだよねぇ。
水の化身である水妖なら適度に水分を抜き取れるから協力してほしいんだよ」
……へぇ、水奈は鍛冶のサポートができるのか…………でも──
「おい、そんな理由で水奈と仲良くなりたいとかほざくなら……消すぞ」
打算で水奈に近付くつもりなら生かしておく気はない。