作業場作成
さて、修羅場見物も悪くはないが──
「あっちは放っておいて話を進め……始めるぞ」
「話って……ああ、そういやあたいたちを作った理由とか全然聞いてなかったね」
「いきなり、あんなもの見せられたから……」
修羅場をBGMに一本踏鞴、百々眼鬼と話を始める。
未だにナギサとツバキが修羅場見物してるけど、教育に悪いような気がする。
「あれについてはスマンかった。
あいつら侵入者で剥ぎ取りをした直後だったからな」
「うん、すんだことだしもういいよ。
で、あたいたちは何で作られたの?」
「お前にはダンジョン内で製作活動をしてもらいたくてな」
「製作って……あたいは鍛冶神である天目一箇神様を祖とする妖怪だからわかるけど、おねぇと姉さんはなんで」
「……私は、細工製作技能が……付加されてるみたい、だけど?」
「百々眼鬼は盗癖のある女が化生し誕生する妖怪だから金目の小物──細工物に関してセンスがあると思ってな」
「看破と鑑定は得意」
ちょっと自慢気に薄めの胸を張る百々眼鬼。
「それに《スリ取り》なんて技能もあるから器用さも高いしな。
どうだ、できそうか?」
「……ん、頑張ってみる」
「それで、あたいと姉さんはわかったけど、おねぇは?」
「産女は布系……機織りだな」
「ん? どういうこと?
おねぇ……産女にそんな技能は……」
「機織りといえば鶴だからな」
鶴の恩返しのおつうは産女ではなく鶴の化身だけど、鶴つながりで産女を作ってみたわけだが……。
「いやぁ、それは流石に無理がないかな?」
「無理なら無理で構わない。糸使いは居るから何とかなるだろうし」
最悪、蜘蛛夫婦に任せればいい。
「え、そうなると、おねぇは……」
「ん? 別に心配しなくても一度生み出した以上、身勝手に消したりしないから心配するな」
命を軽々しく扱うつもりは欠片たりともない。……味方のは、と限定するけど。
産女は母性の妖怪だからアホガキ……もとい、子河童たち、延いては今後生まれてくる子妖怪の親代わりになってもらえばいいだろう。
試練の妖怪でもあるから、子育てにはかなり向いてそうだし。
「無理そうなら生まれて間もない子妖怪たちの面倒を見てもらうから」
「それならおねぇにピッタリだね」
……俺にはアホ……子河童にいいように遊ばれている未来が見えるがな。
「ところで、あたいたちに製作を任せてくれるみたいだけど、そのあたりの環境はどうなってるの?」
「……それは重要。
私なら静かな場所が必要。ここみたいに五月蝿い場所だと、集中が難しい」
「あたいの場合は火力が必要だから、それに恩恵がある場所かな」
「それはこれから作るつもりだが……」
静かな場所と火に恩恵がある場所か、それなら──
「静かな場所だと生産区があるな」
「生産区?」
「このダンジョンの食料生産用の階層だ。あそこは侵入者が入れないようになってるから五月蝿くなることはないぞ」
「……ん、ならそこで」
火の方は俺の称号《火を厭う者》の影響があるから微妙ではあるが──
「一本踏鞴の方は火山フィールドがあるな」
「それじゃあ、あたいはそこにお願いしようかな」
「でもそこは生産区と違って迷宮区だから侵入者が来ることもあるぞ?
あと、あそこの連中は車系の妖怪ばかりで、しょっちゅうレースやってるから確実に五月蝿いし」
「ん~、大丈夫大丈夫
それに車妖怪ならあたいも楽しめそうだし」
……? どう楽しむんだ?
「そうか、ならいいが……あとは産女だが……」
……修羅場の方に目を向けると合成獣と鶴が言い争い、その間で虎が情けなくオロオロとしている光景がある。
……産女は鶴の姿にもなれるんだな。
「……とりあえず、生産区に機織り小屋を創っとけばいいか。
火山に鍛冶場、生産区森林の湖畔に工房、生産区草原の河原に工房を作成──承認」
施設をそれぞれの場所に作成する
「あ、鍛冶場の近くに水辺はちゃんとあるかな?」
あ~、鍛冶にはちゃんと水が必要か、それなら追加で川を……いや、待てよ──
「火山の鍛冶場と森林湖畔の工房に転移ポータルを設置──承認」
どうせだから百々眼鬼の工房と繋げばいいや。
「こうしとけばいいだろ。
さて、作ってはみたが……」
「ありがとう、ご主人。それじゃあ見に行こうよ」
「……そうね、実際に見て確認して、過不足ないか確かめないとダメね」
「ああ、そうだな」
「それじゃあ、あたいの鍛冶場から行こうよ」
「わかった。
ゼンそれじゃあ、俺たちは帰る…………まぁ、頑張れ。
ほら、行くぞナギサ、ツバキ」
「グルッ!?」
できあがった鍛冶場と工房を確認するため、ゼン達を放置して雷ヶ原を去る。
ゼンの助けを求める声が聞こえてきたような気もするが……気のせいだろう。
ストックがなくなってきたので明日から1話か不定期になります