口封じ
「相変わらず回りくどいことばっかやってんのな」
「しゅ~」
「ヒョ、ヒョヒョッ!」
「いや、別にゼンの為じゃないって……どう見てもゼンの為だろ。
聞くところによると毎回ゼンがピンチになる度に助けているみたいじゃないか」
そのうちゼンも『やっぱり来てくれたんだね、兄さん』みたいなこと言い出しそうな気がするぞ。
「ヒョッ!?」
「誰がそんなことを、って秘密に決まってんだろ」
ソースをバラすわけない。
「それにあのままお前がアイツら倒せたし、あの雷撃だって手加減してたろ」
「ヒヒョッ、ヒョ」ブンブン
「そんなことない、ってそんな嘘を信じるか。
本当だとしてもお前が呼雷樹の実を食えばよかっただろ」
「ヒョヒョッ!」
「あ~、お前が食ったら侵入者達が死ぬから無理なのか……」
ふむ、なかなか認めんな……。
「しゃ、しゃぁ……」
「ん、どうしたツバキ?」
どうすればツグミがゼンへの想いを認めるか思案していると、ツバキが何かを脚の一本で指している……あれは幻?
「どうかしたのか?」
「しゅしゅー」
「ちょっとナギサ、あの金属鎧の奴を持ってきてくれ」
ツバキが確かめたいことがあるみたいなので、見つかりにくく、力持ちなナギサに幻を持ってくるよう頼む。
「あ~、これは……」
「ヒ、ヒョ……」
「しゅぅ……」
「しゃ?」
ナギサが持ってきた幻を見て俺たちは絶句してしまう。
何故なら幻は身体のほとんどが炭化してしまっているからだ。たぶんだが金属鎧のせいでツグミの雷撃をもろに食らったっぽいな。
……ナギサ、なんでお前が疑問形なんだよ? お前が腕を持って運ぼうとしたときに腕がポロリしただろ。
ただ、驚くべきことにこの幻……まだ生きているっぽい。
少なくとも撃破のメッセージは聞こえていない……がそれは時間の問題だろう。
──侵入者を撃破しました、512ポイント入ります。
って思ってるそばから撃破メッセージがきたな。
さぁ、どうするか。
このダンジョンで人死になんて現在絶賛封印中の狂骨の元になった天馬聖騎士以来だ。
死人が出たとなるとダンジョンへの警戒レベルが高くなるから極力殺したくなかったのに……いくら盗賊とはいえ…………あ!
盗賊ならコイツら皆殺しにして口封じすればいいんじゃん。
ギルド所属の冒険者だとこのダンジョンに来た記録に残されていて偽装はできないけど、コイツらならコイツらの口さえ封じておけばなんとかなる。
そうと決まれば──
「ツグミ、ゼンに伝令
きっちりそいつらに止めを刺せ、と」
いつもとは違い、侵入者を逃がさないよう伝令を出す。
「ヒョ、ヒョ!?」
「ああ、お前がコイツを殺っちまったから、だからな。ミスの尻拭いは自分でしろ」
「ヒョ~」
自分が行かされることに驚いたツグミを説得し、伝令に向かわせる。
「ミャッ」
「ちっ、なんだこいつぁ……いきなりパワーアップしやがって……他の奴らはもうみんな殺られたしよぉ。
仕方ねぇ、とっととズラかるか」
「ミャァ……」
あ、やべ、ゼンが相手してた奴が逃げようとしていて、ゼンはいつも通り逃げる奴は追いかけない。
ツグミがゼンと合流する前に侵入者が逃げ出したその時、
「なっ、なんだこれは!?」
「しゅ──っ!」
いつの間にか出口付近に糸を張り巡らされていて、侵入者が足止めされる。
ナイスだ、ツバキ!
「ヒョー!」
「ミャ? ミャミャッ?」
「ヒョ、ヒョヒョー!」
ツバキが足止めしていると、ツグミがゼンのところにたどり着き、伝令の内容を伝える。
最初は伝令の内容に疑問を持っていたようだが、ツグミが事情を説明すると──
「ミ、ミャアッ!?」
あわてて逃げた侵入者を追いかけ始めた。
「ちっ、逃がすつもりはねぇってか、このクソ猫がぁ!」
「ミャッ!」
ゼンが追いかけ始めたことに気づいた侵入者は、ゼンを倒さない限り逃げれないと理解したのか、逃げるのをやめ再びゼンと向き合う。
……まぁ、ゼンを倒してもツグミもいるし、まだ逃げれないんだけどな。
「ああ、クソ……せっかくギルドの監視が弱まったから、雑魚ダンジョンをいただこうって思ったのによぉ。ったく、赤字もいいとこだぜ!」
侵入者はブツブツ呟くと、力任せに斧を振りゼンに斬りかかる。
「ミャッ、ミャアッ」
「ぐぁっ!」
しかしゼンは危うげなく躱し、逆に電撃を叩き込み──
「ミャア!」
「ぐっ、…っそ」
追撃に爪で斬りかかるも、半ば躱され、鎧……ボーンメイルの一部、何かの動物の肋骨の先を斬り飛ばす程度しかできない。
この男、斧を使っている所為か、攻撃速度は遅いくせに回避力が高いな。ボーンメイルの防御力も高いし厄介だ。
「ヒョー! ヒョヒョー!」
「ミャア、ミャッ」
なかなか攻撃を当てられないゼンに業を煮やしたツグミはアドバイスを飛ばす。
ゼンはそのアドバイスに従い──
「ミャァァァァァァ!」
自分の爪に電撃を籠め、電気製の爪を作り出す。