刹那と雷ヶ原
雷ヶ原
そこは常に雷が降り注ぐ半端なく物騒な平原。ここに疎らにだが生えている木は通常の木ではなく『呼雷樹』という雷を引き寄せ、果実に蓄える性質がある木だ。避雷針の役割を果たしているのだが……平原なので呼雷樹じゃなくても、普通に雷は木に落ちる。
ただ、この木の性質はそれだけじゃないけど。
ここに配置している雷山猫はその呼雷樹のうろに巣をつくって日々雷を取り込みながら生活をしている……のだが……。
「刹那はそんな所で何をしているんだ?」
呼雷樹から離れた草むらで耳を押さえてガタガタ震えている刹那を発見。
「に、にゃ~……」
「ふむ、強くなるために他の猫妖怪のもとを訪れたけど、常に降り注ぐ雷の音が怖い、と……」
そういや猫って基本的に大きな音が苦手だったっけ……雷とともに生きる雷山猫は例外だけど。
「別に怖がらなくても、基本的には呼雷樹が吸収するから安全……どわっ」
心配ないと刹那を宥めていると、近くの呼雷樹から雷が飛んできた。
……しまった、こっちの性質もあったな。
呼雷樹には雷を吸収する性質だけでなく、吸収した雷を周囲に撒き散らす性質もある。
吸収したはいいものの果実に蓄えきれなかった雷を放出するのだ。
うん、横殴りの雷ってかなり物騒だよな。
「に、にゃ──っ!」
目の前で起こった惨劇未遂に恐怖を強くする刹那。
……さぁて、どうするかな……。
水奈が居たなら純水の膜を作ってもらって雷をガードできるんだが……。
あいにく俺は今スキルが使えないし、そもそもそんなスキルは持ってない。
また、刹那は近接型なので、せいぜい装備を雷耐性のものに換装するくらいしか方法がない。
だが、刹那が怖がっているのは雷そのものではなく、雷の轟音だからなぁ……。
「にゃぁ~……」
耳詮なんかも雷みたいに響くタイプの音には効果が薄いし……仕方ない。
「刹那、音は我慢するんだ、さぁ行くぞ」
「にゃ~ぁ……」
特に策が思い付かないので刹那を抱えて雷山猫たちの元へ向かう。
雷ヶ原を進んで行くと、比較的呼雷樹が多い場所に到着する。ここが雷山猫たちの居住地だ。
「ミャァ!?」
「ミャア!」
ここに到着するなり、早速雷山猫たちが現れ歓迎してくれる。
「ああ、久しぶりだな。
俺の方はある程度回復したから、その報せも兼ねての見廻りだ。刹那は同じ猫妖怪として色々話したいそうだが……まぁ、今はそっとしておいてやれ。
ところでお前たちは何か俺に要望はあるか?」
軽く事情を話し、ついでに雷山猫たちの要望を尋ねる。
火山のやつらにだけ何かするのはダメだもんな。
「ミィ……」
「ミャァ」
「ミャゥ」
「ミャア!」
しばらく雷山猫たちは話し続け、答えが出たようだ。
「決まったみたいだな」
「ミャァ、ミャミャァ」
「え、ツグミに旦那を用意してほしい?」
「ミャア!」
何でも階層ボスの中で唯一独り身なことにツグミ自身色々思うところがあるらしく、なかなか情緒不安定らしい……。
確かに階層ボスのいない火山と雪原を除く湿地帯・森のボスには相手がいて、まだ卵だけど子供もいるが……。
「蜘蛛夫婦はともかく、コクホウとナデシコは自然とくっついただけなんだが……」
むしろあいつらがくっついたことにビックリしたし。
「ミャァミミャァ」
せめて相手となる可能性のある妖怪を作ってほしい、か……。
「なら別にお前でも構わんだろ、ゼン」
鵺の一部は虎だから猫との相性も悪くなさそうだし。
「ミャッ!?」
「いや、だってお前もネームドだし、多少妖怪としての格が劣るかもしれんが……まぁ、頑張って進化しろ」
高位妖怪の鵺なツグミの相手になるには苦労しそうだがな。
「ミャアッ!?」
「まぁ、とりあえずお前ら用に『呼雷大樹』を作っておくから……頑張れ」
雷山猫たちの住処のど真ん中に大樹を一つ作り出し、そそくさとその場をあとにする。
恋愛ごとに迂闊に首を突っ込むとろくなことにならないから、ゼンには悪いが生け贄になってもらおう。……まぁ、ゼン自身もツグミのことを気にかけてたから満更でもないだろう。
ただ、鵺はかなりの高位妖怪だからかなり長い道のりだろうけど。
そういや、鵺と同格の妖怪なんてどの程度いるんだろ?現在うちで一番鵺に近いランクは猫ショウの刹那だが、まだ不足気味?
久遠なら天狐や空狐あたりになったら追い付けるが……もしかして、ツグミは高嶺の花すぎて売れ残るタイプかな?
…………頑張れ、ゼン。
できるだけ雷ヶ原が1層になるようにするから早く進化してやれ。
「さて、刹那~」
結局、雷ヶ原の途中で雷への恐怖で気絶した刹那を介抱しながら軽く揺する。
う~ん、同じ猫妖怪に相談するにしても、火山の火車に相談するか、雷山猫を呼び出せば良かったのに……。
う~ん、起きない……。
これじゃあ刹那は雷ヶ原で戦わせるのは無理そうだな。このあとは雪原と森に行く予定だったけど、一旦部屋に帰って寝かせるか。