火山からの要望
侵入者がぼろ雑巾のようになったところで轢き逃げをやめる車妖怪たち。
輪入道が最後に押し潰すと確実に死んでしまうので、いつもここまでで終わらせている。
「「「キィー」」」
轢き逃げが終わると周囲に隠れていた小鬼たちがせっせと侵入者たちを片輪車にのせ、ダンジョンの入り口まで運ぶ。
「ここの連中は相変わらず地形効果は利用しないんだな……」
「まぁ、利用しなくても余裕があるから……」
火山には炎系へのブースト効果があり、小鬼以外は炎の能力があるのに一切使う気配がない。ステータスの伸びも物理系能力のみで、魔法系はほとんど成長してない。
しっかし、AGIの成長は半端ないなぁ……。
……まぁ、コイツらは名付きじゃないからやり直しが効きやすいし、やばくなってから考えればいいか。
「それにお兄様の影響で炎は減衰されているから頑張り甲斐がないのよ」
……あ、俺の所為でもあったか……。
「火山としては使ってなくても、山……と言うか坂道なら使っているのだけれどね……」
ああ、確かに下り坂で思っきし助走をつけた轢き逃げやってたね。危うく侵入者が死ぬとこだったわ。
「あと、誰も炎の能力を使っていないって言ってたけど、使っていたのを禁止したのお兄様じゃない……」
ああうん、確かに俺が禁止したけどさ──
「炎の噴射や爆発で加速して轢き逃げって、やること自体はまったく変わってないだろ」
それを下り坂とのコンボでやるから半端なく危険だし。
「あ、そうそうお兄様」
「何だ?」
「彼らからのリクエストなのだけど、何でもいいから自分たちと同じ車系の妖怪を増やして欲しいそうよ」
「は? 今でさえ十分過ぎる戦力なんだから、別に増やさなくても……」
轢き逃げもさることながら、俺の所為で恩恵が減衰しているとはいえ火山というフィールドはかなりの難所なんだし。
「むしろそれが問題なのだそうよ。簡単に侵入者を倒せ過ぎて暇らしいしの。
だから暇潰しのためにレースをしたいそうよ」
ああ、そういうことね。
「わかった、それなら後で何鬼かつくるか……それとレースコースも俺が用意するから伝えておいてくれ」
「ええ、わかったわお兄様」
さ~て、どんなの作ろうか?
「ところで、久遠は何でここに居るんだ?」
「私は《狐火》の強化のために来ているのよ。
なんだかんだで炎の恩恵があるからね、ここは」
なるほど──
「苦労をかけるな」
俺の《火を厭う者》の所為で久遠は結構割りを食ってるってことだよな、コレ……。
「別に気にしなくてもいいわよ、ほらっ」
そう言うと久遠は尻尾を立て、その先にスイカ程の大きさの炎とそれより一回り小さいサイズの水を作り出す。
「私たち妖狐は尾の数だけ自然のちからを使えるの。
基本は火、あとはそれぞれの環境に合わせて進化・成長ごとに能力が増えていくの」
「なるほどな……ん?」
野狐に進化した久遠の尾は三本……ってことは──
「あと一つのちからはどうした?」
「もう一つはここでは作れないけど、氷よ。言ったでしょ『環境に合わせて』って。
まず間違いなくお姉様の影響ね……まぁ、お兄様の恩恵を受けられるから悪くないけれど」
そういや野狐に進化したとき《狐泉》と《狐凍》ってスキルが追加されてたけど、あれがそうか。
しばらく久遠と話し、車妖怪たちや小鬼の相手をしてレースコースの約束をしたのち他の層へ向かう。
久遠はついて来ようとしたが、狐火の練習をするためついて来るのをやめた……と言うかやめさせた。
できれば気楽に歩き回りたい気分だからな。
さて、次は3層の雷ヶ原に行くかな。