ひき逃げ
2層の見廻りを終え、次は1層に顔を出す。
結局あのあと水奈は見つからんかったなぁ…。
実は俺が寝たきり状態の時から、このダンジョンには新たな試みに挑戦中。それは階層交換の仕掛けだ。
そのため現在の1層は森ではなく、火山になっている。
発端はツムギが産卵でステータスが落ちたからだ。さすがにその状態で1層ボスの務めはキツそうなので、一時的に2層の河童派遣も検討したが、奴らも孵化のために身動きがとりづらいので却下。
それならと3・4・5層の連中を順繰りに階層ごとおいてみたわけだ。
侵入者が2層までしか入って来れてない現状、3・4・5層の連中も暇潰しにもなるしレベルアップにも繋がるので二つ返事で引き受けてくれた。
今日は最初3層に設置した火山が1層に配置される日というわけだ。
火山に一歩足を踏み入れ……即座に回れ右。
うん、暑い……むしろ熱い。
《火を厭う者》の効果もあって暑さが半端なく不快。
何で俺はこんな所に来たんだろう? ……いや、快復してきたからダンジョン内にそれを報せるのを兼ねて見廻りに来たんだけどね。
「あらお兄様、もう出歩いても大丈夫なの?」
本気で帰ろうかと悩んでいると久遠が声をかけてくる。
「久遠か、戦闘は無理だがもう大丈夫だ」
「そう、それは良かったわ……でも、お兄様のお世話が出来ないのは残念ね……」
寝たきりの間は六花たちが介護してくれたが、実はいちばん世話になったのは久遠だ。
……主に下の世話だけど。
理由は久遠が唯一の完全獣型(刹那は介護のときは人化する)だから。
人型の六花たちにされるよりはダメージが少ないので極力久遠に任せていた。
「ところでお兄様はどうしてこちらに?お兄様は暑いのが苦手だったはずよね?」
「快復の報せも兼ねての見廻りだ」
「あらそう、ちょうど侵入者を撃退したところだから、みんなそこにいるわ。こっちよ、お兄様」
そう言って久遠は歩き出す。
……やっぱり行かないとダメだよな……。
──侵入者が現れました。
久遠の後を追っていると、侵入者が現れたようだ。
「あら、なんてタイミングの悪い……かわいそうに……」
「確かにいろんな意味でタイミングが悪いな」
俺が戦闘不可能な状況で侵入者の近くにいるのもタイミングが悪いが、それよりも、今日の侵入者はかわいそうなくらいタイミングが悪い……。
「まぁいいわ、行きましょうか、お兄様」
「え、アレを見るのか?」
「ええ、彼らだって頑張っているんだからたまには見てあげないとかわいそうよ」
「え~」
「ぐぁっ……」
「ごふっ……」
「ぐげっ……」
ダンジョンの入り口付近に来て、目に入った光景は三人の侵入者が宙を舞う姿。そして、その侵入者たちは重力に導かれ地面に激突……することはなく、
「クペッ」
「ふはん……」
「げはっ……」
再び宙を舞う。
何故そんな現象が起こっているかというと、
「グルンッ」
「グルル」
「みゃあ!」
火山に配置している三鬼の車系妖怪による『轢き逃げジェット○トリームアタック』が原因だ。
小さな火車が侵入者の体勢を崩し、中くらいの片輪車が天高く舞い上げ、しばらく交代しながら三鬼で地面に落とさないよう轢き逃げを繰り返し(今ここ)、最後に大きな輪入道が上から押し潰すコンビネーション。
コイツらはこのコンボで大抵の侵入者をやっつけるから結構見飽きてるんだよなぁ……。