総力戦
2層に到着するとそこは……、
「何だよ、このスケルトンは!?」
「無茶苦茶じゃねぇかよ、こんなの聞いてねぇぞ!」
「このダンジョンは無闇に人死にを出さない安全なダンジョンのはずだろうが!」
血の海だった。
その血の海を生み出したのは一体の骸骨……発生したばかりの狂骨だ。発生したばかりなのに凄い強さだ……この強さならかなり心強い…………が、
「「キィー……」」
その血の海には侵入者だけでなく、ダンジョン側の存在である川獺や川猿、そして、
「ク、クケェ……」
河童が沈んでいる。
ちっ、河童は小河童から進化した所為で復活に時間がかかるようになったから殺られるとまずいのに。
──半ダンジョンモンスターが侵入者を撃破しました。726ポイントの半分が入ります。
半ダンジョンモンスターは仕様変更で野生の要素を加えられたモンスター──うちの場合は動物だけど──のようにダンジョンで生まれながらもダンジョンマスターの支配下にいないモンスターを指す。
……やはり狂骨は第三勢力と見るべきか……。
見た感じ敵味方の感覚なんてまったくなく、動く物すべてにその手に持った剣で斬りかかっている。
「くそっ、一人殺られた」
「やべぇよ、早く逃げっぞ。転移環を使ってくれよ!」
「今殺られた奴が持ってたんだよ!」
侵入者たちは脱出手段を失ったみたいでかなりパニクっている。
「あ、河童さんが……」
ちっ、こっちも河童が殺られたか。しかもまずいことに今の六花の声で狂骨の狙いがこっちに向きやがった。
狂骨の手には見覚えのある両手剣……それは3ヵ月前に罠に嵌めて殺した天馬聖騎士の持っていた宝剣だから、この狂骨はその天馬聖騎士で間違いないのだろう。
くそ、かなりまずいな。どのくらい生前のちからを保持しているかわからないが、斥候とはいえ侵入者数人とうちの妖怪を同時に相手どって圧倒しているあたり勝てそうにない。
「……ん?あ、そこのお前、後発組か!
脱出用のアイテムを……って石の仮面!?……てめえダンジョンマスターか!?」
あ~、もぉめんどくせぇ~。侵入者も気付きやがった……時々石仮面つけて侵入者をおちょくってたから簡単にダンジョンマスターってバレたよ。
「なっ、てめえ嘘つきやがったな!何が『極力殺すつもりはない』だ。問答無用で殺しに来てるじゃねぇか!」
「うるせぇよ、2層まで来てる時点で秘宝狙ってんだろうが……それにうちのモンスターも殺られてるのが見えないのか、ボケ」
ったく、こっちはこっちでこの骨なんとかしなくちゃいけないんだから少し黙ってろ。
仕方ない、あまり使いたくない手だが……。
「モンスターギャザリングを作成──承認(ボソッ)
我が配下よ、疾く我の元へ来たれ《モンスターパーティー》」
本来は罠アイテムなモンスターギャザリングを作り出し、ダンジョンにいるモンスターの大半を呼び出す。
その際、こちらアイテム作成能力を侵入者に知られない為に、モンスターを呼び出す能力風に偽装しておく。
「あら、お兄様どうしたのかしら?」
「にゃ~?」
蜘蛛夫婦とコクホウ・ナデシコ以外の全ての妖怪を呼び出し総力戦を仕掛ける。突然の召喚に呼び出された妖怪たちは戸惑い、代表するように久遠たちが話し掛けてくる。
「ちょっとばかし厄介なのがいてな……こっちも全力でいかないとまずい」
「厄介なのってあの侵入者……じゃないわね。それじゃあ、そこの骨のかたかしら?」
「ああ、この間殺った天馬聖騎士の成れの果てだ」
「ああ、刹那がいじけてた時の……ある意味原因ね」
「にゃ!?」
あ~、確かにこいつ殺った時に入った大量の経験値でのレベルアップがきっかけだからある意味原因だな……。
「それじゃあ邪魔になりそうなそっちの方々には眠ってもらいましょうか。
《幻夢・落紅葉》」
久遠が幻術を使い侵入者たちを眠らせる……ふむ、これなら余計な邪魔をされずにすむか。
「よし、まず鬼火は狂骨を囲んでじわじわ削れ。
アラサルシは狂骨の動きをふさいで、河童と水奈は六花とともに氷の盾を作り押さえ込め。
河童を除く2層の奴らのは水で攻撃。ナマハゲ達は妖武具を持って攻撃。4・5層の奴らは2層の奴らが殺られたら炎と雷撃だ。攻撃タイミングはナマハゲリーダーの指示に従え。
それと名付きの連中は極力離れた位置から攻撃。お前らは死ぬと蘇生できないかもしれないから気をつけろ」
侵入者が眠ったので、集まった奴らに指示を出し、狂骨との戦いを始める。