3ヵ月後
侵入者を見るも無惨な姿でダンジョンの外に放り出してから約3ヶ月、一時は侵入者が減ったものの最近また侵入者が増え出し、ついでに質も少し上昇したらしく昨日遂に第一層を突破されてしまった。どうも宿場町がある程度形になったっぽい。
そして第一層のボスである大蜘蛛夫婦は……、
「ちょっと間が悪かったな……」
「なのです」
「にゃ~」コクコク
「そうね」
現在マスタールームの隣に作られた産卵部屋、その扉前にいる。
河童たちの産卵時にいろいろ問題が発生したので急遽設置した部屋だ。
3ヶ月のうちに大蜘蛛夫婦は大蜘蛛からそれぞれ土蜘蛛と絡新婦に進化し、配下の小蜘蛛とは違う本当の意味での子蜘蛛の産卵をするために一昨日からこの部屋に詰めている。本来的にここに詰めるのは母親であるツムギだけでいいのだが、初子であるだけにアスラも心配して一緒に詰めているのだ。
そのため、突破された時は大蜘蛛夫婦は不在で指揮者がいないため小蜘蛛の戦力は半減、その代わりに河童たち一層を守らせていた。大蜘蛛夫婦が不在の時のために普段から河童たちに階層の行き来を許可していたのが活きていた。
そしてその場合の一層ボスはナデシコのはずなのだが……、
「まさかコクホウ達と蜘蛛夫婦の出産が被るとはな」
河童の中で唯一独り身だったコクホウがいつの間にナデシコとくっついて、今まさに産卵の真っ最中。ちなみに蜘蛛夫婦の産卵は少し前に終了し、現在は二鬼とも疲れて眠っている。……つまり結局、一層を突破されたときはボス不在だったってことだ。
「しっかし、コクホウとナデシコがくっついていたとはな……」
「あれ?主さまはご存知なかったのですか?」
「河童たちの誰よりも早くくっついていていたわよ、兄様」
「にゃ~」
「え、まじ?」
「はい」
「ええ」
「にゃ~」コクコク
コクホウ何気に手が早かったんだな……。つーか、知らなかったの俺だけかよ。
「蜘蛛夫婦はともかくコクホウ達のところはどんな子供が生まれるんだろうな?」
蜘蛛夫婦は両親共に蜘蛛の妖怪だから蜘蛛系、たぶん両親の前身である大蜘蛛だとおもうが、河童と蛇の子供って何になるんだろう……水棲なのは間違いないが……。
「キャンキャン」
「主さま、無事産卵は終わったそうです」
しばらく待っていると産卵部屋から犬神が現れ、産卵が終わったことをつげる。
あまり大人数で産卵部屋に押し掛ける訳にも行かず、それぞれの夫と産卵経験のあるメス河童とメッセンジャー役の犬神、それと万が一に備えて回復役の水奈を残してあとは部屋の前や各自の巣に待機している。
「キャンキャン」
「ただ、やっぱりナデシコさんも疲れているので、面会などは明日にした方がよいみたいなのです」
「そうか、それなら犬神、その報せを他の層の妖怪にも通達してくれ」
「キャン」
命令を下すと犬神は天井をすり抜けで部屋からいなくなる……壁抜けって便利そうだな……。
さて、ツムギもナデシコも母子共に健康みたいだからとりあえず解散するか。
「とりあえず今は二鬼ともそっとしておいた方がいいみたいだからここを離れるぞ」
「はいなのです」
「ええ」
「にゃ~」
産卵室を離れ……とりあえずダンジョン内に設置するアイテムでも作るかね。