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義妹で幼な妻

「よし、それじゃあ解さ……「「「クケェ!」」」……ってなんだよ」

 

 進化も終わったので解散して持ち場に帰そうとしたら河童数名から待ったの声が飛んできた。

 

「「「クケェ、ククケ、クッケェ!」」」

 

 うん、早口過ぎてわかんねぇ。未だにコイツらの言葉はなんとなく程度にしかわからんからなぁ……。

 

「着替えたお姉様の姿を見たいんですって」

 

「そうなのか?」

 

「「「クケッ!」」」

 

 困惑していると久遠が通訳してくれる。

 

「ところで久遠」

 

「何かしら、お兄様?」

 

「刹那はどうだ?」

 

「あらやだ、お兄様、まるで思春期の娘にどう声を掛けていいかわからず、妻に尋ねる父親みたいよ」

 

 ……うん、自分でもそう思った、でも……。

 

「……心境的には正にそんな感じなんだけどな」

 

「あら、フフッ。

 それじゃあアタシはお兄様の妻かしら?」

 

「いやお前は妹だろ。それに六花の妹でもあるから高く見積もっても10歳くらいだし」

 

「義妹で幼な妻っていうのも悪くないんじゃないかしら?」

 

「いや、そんなの……悪くないな……って、そうじゃなくて。刹那は落ち込んでたけど大丈夫か?」

 

 危うく久遠の口車に乗せられるところだった。義妹で幼な妻とはなかなか甘美な響きだ。

 

「あら、残念。

 刹那なら今は落ち着いているわ。だけど、根本的には解決していないし、なるべく近いうちにきちんと話し合っておいた方がいいわね。あの娘、自分を追い詰めちゃうタイプだから」

 

「そうか、それならこのあとちょっと話すか」

 

「それがいいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その主さま、着替えが終わりました」

 

 久遠との話が一段落したところで六花がドアを少し開きその隙間から顔を覗かせて来た。どうやら着替えが終わったらしい。

 

「どうした入って来ないのか?」

 

「え、あ……あの……笑いません?」

 

「笑うって……べつに可笑しな格好じゃないだろ……」

 

「う~、でも、似合わな……「さっさと入りなさいな」きゃっ!?」

 

 

 六花がもじもじしていると、いつの間にか六花の背後に行った久遠が体当たりして部屋の中に押し込む。

 六花に与えた淡雪の羽衣は純白のヒラヒラな感じの着物、黒髪とのコントラストがかなりいい感じだ。前に渡したウサ耳フードケープは合わなかったのかつけていない。

 

「どこも可笑しな所なんてないじゃん。似合ってる、かわいいぞ。なあ?」

 

「「「クケッ」」」

 

 六花を褒め、河童たちにも問い掛けて同意を得る。

 

「へぅっ……か、かわいいだなんて……」

 

 すると、真っ赤になって恥ずかしがる六花。

 

「「「ケッ」」」

 

 そして、やさぐれる河童たち。

 

「よし、それじゃあ今度こそ解散だ」

 

 河童たちがやさぐれるのいつものことなので放置して解散させる。

 

 さて、それじゃあ刹那と話し合わないとな。

 

「刹那、ちょっといいか?」

 

「……はい、兄様」

 

 河童たちと共に部屋を出ようとする刹那を呼び止める。

 

「あ、六花たちは席を外してもらえるか?」

 

「はい、わかったのです。

 行きますよ、久遠ちゃん、水奈ちゃん」

 

「……うん」

「それじゃあ、ごゆっくり」

 

 

 六花たちにも部屋を出てもらい刹那と二人っきりになる。

 

 さて……呼び止めはしたが、何から話したもんかな……。

 

「刹那、なんで最初に部屋からいなくなったんだ?」

 

 とりあえず時間を遡り、事の始まりから聞いていく。

 

「はい、その……皆さんが進化できるのに、わたくしだけ進化できないことが不甲斐なくて、悲しくなって……つい」

 

 ああ、やっぱりそうか。自分だけ進化できないってのは置いてきぼりにされたような感じだもんな。……でも、

 

「その少し前からちょっと様子がおかしかったが……」

 

 進化の事を話す少し前から様子がおかしかったのを俺は覚えている。

 確か新3・4層を調えているときあたりから様子がおかしかった。

 

「うぅ……その、ですね……。わ、わたくし以外にも猫の妖怪を……生み出されたので……ですね……」

 

 刹那は俺の疑問に観念したかのうように、歯切れ悪くだが理由を話し出す。

 

 ……つまり他の猫妖怪に嫉妬したってことか?……確かに刹那が妙な声をあげたのは雷山猫と火車を作成した時だったな。

 それと1人だけ進化できなかった悲しみでつい逃げ出したわけだ。

 

「ああ、もうかわいいなぁ」

 

「わぷ、な……兄様!? なななななななな、なにを……」

 

 そのいじらしさに堪らず刹那を抱き締め力の限り撫で回す。

 

「や、ダメです、にーさま……そんなにされると……だ、だめ」ポンッ

 

 

 刹那の拒否をシカトしながら撫で回し続けていると、刹那から煙が溢れると同時に腕の中から刹那の感触が消える。その代わりに刹那の大きさよりかなり小さな毛玉の感触が腕の中に現れる。もしかして……。

 

「猫の形に戻ったのか?」

 

 その疑問の答えは煙が晴れると同時に明らかになる。

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