落とし穴
うん、これは嫌がらせ以外の何物でもないよね……まぁ、俺が下した命令の一つなんだけどさ。
「ぐぎぇっ、ギザマ゛ら何のづもりだ……」
意外と効いてるけど肉体的ダメージはゼロ、むしろ怒らせた分こっちのピンチが増しいる。
レベル差から対抗できそうにないしどうすっかな。何気に河童ミサイルは高攻撃力なのにあまり効いてないし……。
とりあえず今はトリモチで身動きが……、
「ふんっ、ギザマら……よぐもコケにじてくれたな」
取れないはずだったんだが、勢いをつけ落とし穴から出てきた。よほどストレスがたまったらしく出てくるや否や河童たちを虐殺し始めた。
さらにピンチが加速したなぁ……もうアイツに効きそうな罠なんて一つしかないぞ……。
本来なら水奈がいた方がよかったんだが……仕方ない。
「久遠、幻術でサポートしてくれ」
「クゥッ!? クォン!」
「おい、そこの貴様、こっちだ」
俺の意図に気付いた久遠が止めようとしてくるが無視して侵入者の前に姿を現す。
罠にかかってくれれば万々歳だが、無理でもせめて久遠だけでも殺されないようにしないとな。
「貴様がダンジョンマスターか!」
俺の姿を改めて確認した侵入者が問い掛けてくる。
「ああ、そうだが……あっ、臭いからそれ以上近寄らないでくれるか、クソ野郎」
「誰のせいだと思ってるんだっ! そして誰がクソ野郎だ!!」
「無論俺のせいだ。でも全身クソまみれなのに近寄られたくはないだろ、クソ野郎?」
そんだけクソまみれなのに持ってる剣には一切クソが付いてないのはスゴいな……いくら元王国の宝剣らしいから身を呈して庇ってたとはいえ。
「キ・サ・マァァァアア、あああぁぁぁぁ……」
あ、キレた。
クソ野郎が足場の悪い沼地をものともせず剣を構えて突っ込んで来る…………俺の5mほど隣に。
久遠の幻惑が効いてるみたいだな。
幻惑は相手の脳に作用し、認識を惑わせるタイプの幻術だ。精神的に不安定な状態だと効きやすい。
レベル差のせいで効くかどうか微妙だったけどわざと怒らせた甲斐があった
クソ野郎が突っ込んだ先には落とし穴があり、まっすぐ落ちていく。
う~ん、ちょっと失敗したな。
あの勢いならかなり落下ダメージが期待できたが、あの落とし穴には落下ダメージを減少させる仕掛けがある。
その仕掛けというのは底なし沼。落下の勢いを利用して最初から抜け出し難くし、更に時間経過とともに沈んでいき最終的に生き埋めになる仕掛け……なのだが、沼故に落下時の衝撃を吸収してしまうので落とし穴なのに落下ダメージは期待できない。
さらに普段は保険として水奈に潜んでもらって沈める手筈なんだがな。
「性懲りもなくまた落とし穴か、卑怯者めっ!」
クソ野郎が喚いているが無視してあるものをウィンドウ操作で作成しながらハンドサインで生き残りの河童達を呼び寄せる。
「だがこのようなグペ」ドガッ
そして脱出しようとしたクソ野郎に先ほど作成したあるもの──バレーボール大の石を投げつけさせる。
うん、後頭部直撃。普通ならこれで死にそうなもんだけど、レベル差の残酷故にあまりダメージは無さそうだ。どうやら後石をぶつけられた頭部のダメージよりも自分で噛んだ舌の方のダメージがでかいっぽい。
「な、こらっ、や……やべっ」
まぁダメージはなくとも衝撃で身動きはとれそうにないから十分だけどな。
石による衝撃や本人が暴れているせいでどんどん沈んでいく。奴に殺された河童たちも復活して合流したのでかなり早いペースだ。
既に下半身は完全に沼の中、上半身も半分が沈んでいるのであとは放って置いても勝手に沈むだろう。
「よし、お前たちもういいぞ」
河童たちに石投げをやめさせる。
「くっ、無念だ、国をモガッ」
自分語りを始めそうだったので手近な石を口に投げ込み止める。……なんか脱出フラグっぽいし。
普通なら死亡フラグだけど、こいつのジョブは天馬聖騎士……天馬が助けにくる可能性がある。
う~ん、一応徹底的にフラグは折っとくかな。
「大岩を作成、仕様変更、サイズ設定──承認」ドゴッ
落とし穴にすっぽり入るくらいの大岩を作り…………落とす。
クソ野郎の頭に直撃したようだが……撃破メッセージがないあたりまだ生きてるみたいだな。
「よ~し、アイツが死ぬのも時間の問題だから撤収……「クォンッ」グペ」
河童たちに撤収を指示しようとしたところで久遠から突撃をくらう。
「どうした久遠?」
「クゥ、クォンッ。クォンクォン、クォンッ!」
怒っているのはわかるが、何についてかはさっぱりわからん。やっぱりニュアンス程度で具体的な言葉がわからんのは不便だな。
……さっきは頭の中に直接言葉を送ってたような気がしたけど……怒っていてそのことを忘れているようだ。