天馬聖騎士の過去
どうやらこの侵入者、もともとはとある国の騎士で、国一番の騎士だった。しかもその国の姫と王公認の恋仲で結婚も秒読み段階だったらしい。
だが、遠く離れた国に王女の婚約者にふさわしい箔をつけるための出向中に祖国が隣国に攻められた。その報せを聞き出向を切り上げ急いで国に帰ったが、急いだ甲斐なく祖国は隣国に支配され婚約者の姫も敵に囚われていた。
レジスタンスを組織し姫を救出しようとしたが、反抗に出ようとした矢先に第三国に隣国が滅ぼされるという展開になったうえに婚約者の姫も既に自害していたという……。
さらにそのレジスタンスも第三国から危険組織として捉えられ、逐われるという、壮絶というかやるせないものだった。
ちなみにその後は無気力な生きた屍状態になり各地を彷徨い最終的にうちに辿り着いたみたいだ。
「アレどうしようか?」
「クゥ~ン」
さすがに憐れすぎて攻撃するのはかなり躊躇われるんだが……。
「……ダンジョンのモンスター……か?」
げっ、気付かれた。
「貴様らダンジョンの存在のせいで……」
ああ、そういやこいつの出向の表向きの理由はやたらと活動的なダンジョンの殲滅だったね。…………つまりダンジョンモンスターを相手に八つ当たりを繰り返して各地を放浪してたわけだ……うん、ヤバイね。
「久遠、幻影だ!」
「クォン!」
まともに相手すると一撃で殺られるから久遠の幻影に紛れて逃げる。
「……待てっ」
放っておくとダンジョンが全滅する恐れがあるので当初の予定通りエクストラルームに続く泉型ポータルまで誘導する。
「久遠、行くぞ」
「クォン!」
「む、逃がさん!」
十倍以上のレベル差のせいで追い付かれそうになったが捕まるギリギリのタイミングでポータルに飛び込み、侵入者もその勢いのまま同じくポータルに飛び込んで来る。
侵入者はこのポータルの対になっているエクストラルーム入り口に、俺たちはエクストラルームの出口に転移する。
さて、エクストラルームのトラップ群でなんとかなるかな?
2層エクストラルームにあるトラップ群にはオーソドックスな落とし穴やトラバサミ、スパイクボールなど様々なものが仕掛けられている。いずれ撤去する予定なのでポイント還元出来ないが消費ポイントも少ない使い捨ての物が多く、魔法的なものはあまり仕掛けてはいない。
「……ぐっ、卑怯な、正々堂々姿を表せっ!」
遠くからトラップの発動音や戯れ言が聞こえてくる。レベル100オーバーで初級ダンジョンに攻めてきといて、正々堂々ってどの口がほざくんだよ……。
トラップの発動音や戯れ言がどんどん大きくなっているがやけに発動音が多い。
……もしかして仕掛けたトラップに軒並み引っ掛かってないか? さすがにトラップルームってのはもうバレているだろうし、少し警戒すれば一応回避できるのもあるんだが……。
「くっ、この程度の罠など足止めにしかならんぞっ」
警戒するまでもないってことか?おーおーレベル100オーバーの余裕ってヤツですか?それならその調子で歩いていろや、致死トラップもあるんだからよ。
そうこうしているうちに河童たちがやって来た。ちょうど侵入者がトリモチ入り落とし穴に落ちて動けなくなっているからなかなかナイスなタイミングだ。
河童たちに予め下してある命令では罠にかかって身動きが取れない侵入者に石やこやしを投げつける、河童ミサイルを発射するなどだ。
「やっと現れたか、この……なんだお前らっ!」
「クケッ」
「「クケケッ、ク~ケッ!」」
「ケェ─────ッ!」
二匹のメス河童が一匹のオス河童の腕を左右から掴み投げ付け、オス河童はその勢いのまま頭突きを繰り出す。
これが河童ミサイルなわけだが……コイツら本当に頭の皿が弱点なんだろうか?
「ぐふっ、ナ゛メるなっ!」
見慣れないモンスターに驚き、隙だらけの状態での攻撃をくらう侵入者だが一瞬のけ反ったあとすぐさま剣を振るい河童を切り捨てる。
うわぁ、踏み込みがない腕の力だけの振りなのに一撃死かよ……。
「クケケッ」
「「「クケッ」」」
それを見た河童たちは作戦を変更し、
「「「「クケェッ!」」」
一斉にこやしを投げ付け始めた。