鏡
久遠を引き連れ1層の、そしてダンジョンの入り口近くにある泉に到着。実はこの泉が2層のエクストラルームへのポータルだったりする。侵入者が使うとポータルは対になるポータルにしか行けないが、ダンジョン側の者が使うとダンジョン内のどのポータルにも行くことができる……当然俺が制限をしなければ、だが。
2層のエクストラルームは現段階ではトラップルームだ。本来は別な部屋にする予定だが現段階で不可能なので暫定的にトラップルームになっている。
河童たちのいるフロアとは独立していて侵入者は行き来できない造りになっているが、2層であることに変わりはないので地形は湿地帯だ。
久遠に幻影をかけてもらい、周囲の風景に擬態しながら入り口まで向かうと、一人の人間を発見。
「……あれが……天馬聖騎士……?」
幸い、天馬は一緒にいないようだが……。
「なぁ、久遠、あれが騎士に見えるか?」
「クゥ~ン」フルフル
「だよな」
どうみても普通のオッサンにしか見えない無精髭の生えた男なので、久遠に問い掛けてみるが、久遠は首を横に振る。
オッサンはの格好は金属製の防具は一切なく布製の衣服のみ。一部の種族は特殊な繊維や製法で金属鎧に匹敵する衣服を作れるらしいが、かなりくたびれた見るからに安っぽい服なのでそれもないだろう。
なんで、そんな格好でダンジョンに? 顔が少し赤いから酒を飲んでるみたいだし……ナメきってる? いや、目に生気がまったく無いから聖騎士なのに飲んだくれるような何かが起こった結果、死にに来たとか?
う~ん、でも剣は持って……って、何あの剣? みすぼらしい服に見合ってないないどころか、半端なく神々しいオーラを放ってんだけど!?
あんなので攻撃されたら一撃死するぞ、おい。本当に何者だ、このオッサン……。
「久遠、ちょっと幻影で足止めしといてくれないか?」
「クォンッ」
久遠をその場に残し、部屋まであるものを取りに行く。それはある目的とダンジョンに入ってきた侵入者を捕らえた時に尋問するために作ったが、未だに使ってないアイテムだ。
……尋問用に作ったけど今までだれも生け捕りにしてないし、尋問用の部屋すら作ってないもんなぁ……。
「待たせたな」
「クォンッ」
取りに行った物を手に戻って来ると……アイツ全然動いてないな。久遠も必要がなかったみたいで幻影を出してないし……本当に何しに来たんだ、アイツ?
「クゥン?」
「ん?ああ、これか?」
久遠が俺が持ってきたものに対して『そんなものどうするの?』とでも言うように疑問の声を出す。
「ちょっとアイツがどんな経緯でここ来たのか気になってな」
ついでに今までまったく出番のなかったコレを使ってみたかったし……ポイントの無駄遣いだとは思いたくないし。
持って来たのは一枚の鏡、その名も『浄玻璃鏡』、閻魔大王の持つ鏡で、死者の生前の罪を映す鏡と云われているものだ。
アイテムとしての効果は映し出したものの過去を見ることができる。
だが最初に俺の過去を映し出せないか試してみたが無理だったし尋問にも使ってないので、今は六花の髪や久遠と刹那の毛並みを整える時に使うくらいで、ぶっちゃけただの鏡としてしか使ってない。
鏡に侵入者を映し、過去を映し出す。
「うわぁ……」
「クゥ……」
それを見終えたとき、俺たちの口から思わず声が漏れでる。
映し出された奴の過去、それは……。