マーカー
──侵入者を撃退しました、121ポイント入ります。
ふう、今回の侵入者も撃退成功、なんとか追い払うだけですんだな。
前に改装してからだいたい1ヶ月経つが、この2週間1日1組のペースで侵入者がやって来ている。
……これ、威力偵察だよな?攻略ペース的に明らかに調べながらの歩みだったし、レベルは平均で10前後、まだ2層目には到達されてないけど1層目は7割くらいマッピングされているっぽい。幸い大蜘蛛夫婦のねぐらは見つかってないけど……対策した方が良さそうだ。
だが、毎日来ている奴らが最初の侵入者に比べてレベルが低いのが気になる。いくら制圧目的じゃないにしてもレベル約半分の奴らを派遣するかな?……もしかして最初の奴らが殺られたことに気付いてないのか?
そう考えるとつじつまが合う。2組目以降の侵入者が来るまで半月あったし。もしそうなら追い返すだけにしといて良かった、無駄に警戒させずにすんだな。
ただ、今のところ1層だけしか侵入されてないから大蜘蛛夫婦しかろくにレベルが上がってない。撃破や撃退するとそれを行ったモンスターだけでなく、ダンジョン内のモンスター全員にもある程度経験値が入るのだが、撃退だとその量が撃破に比べてかなり少ない。だから毎回直接侵入者と対峙している大蜘蛛夫婦以外はレベルの伸びがよくないだよなぁ……。
う~ん、他の層の奴らも持ち回りで1層に応援にどうしたもんか……。
〔あの、主さま少しよろしいでしょうか?〕
頭を悩ませていると、感覚を繋いでいる刹那の耳を通して六花が話し掛けてきた。
「どうした?」
〔はい……主さま、刹那ちゃんが目も繋ぎますので見てほしいのです。
刹那ちゃんお願い。
主さま見えますでしょうか?〕
刹那の目を通してダンジョン内を見ると……なんか妙な魔法陣らしきものが見える。
木陰に隠すように設置されてんな……。
「これは何だ?」
〔これはおそらくですが、転移マーカーだと思います〕
転移マーカーっていうと、確か転移の術を使う際の目印だったな。……ってことは次の侵入者は入り口じゃなくて、ここから来るのか?
ふむ、消しといた方がいいな。
「六花、それを消すことができるか?」
〔はい、久遠ちゃんができるのです〕
久遠が、ってことは錬金術スキルか?……まぁいいや、とりあえず消……っと、待てよ。
ここは敢えて気付いてない振りをしといた方がいいかも。泳がせて罠にかけたりできるし。
「その陣に細工は出来ないか?」
〔クゥ……クォン〕
〔あまり大したことはできないのですけれど、少しならできるみたいなのです〕
久遠のレベルは7だからまだステータスが足りないのか……。拙い細工だと警戒されるから今は保留しといた方がいいか?
「わかった、ひとまずそれはおいといて……そうだな、大蜘蛛夫婦にそこの監視もしとくように言っておいてくれ。警備班の巡回コースにも追加しておくから」
警備班は河童たちを中心にした文字通りダンジョンを警備する奴ら、RPGのランダムエンカウントモンスター的な位置付けだ。
〔わかりました、それでは……〕
「あ、久遠と刹那は先に帰って来てくれ」
転移マーカーを細工するかどうかは久遠に何が出来るか聞いてから決めた方が良さそうなので、久遠たちを呼び戻す。
〔クォン〕
〔それでは、わたしと水奈ちゃんも用事を済ませて帰りますね〕
六花がそう言うと刹那の《感覚共有》が解かれる。