変若水
「主さま、こちらにいらっしゃったのですね。水奈ちゃんの様子はどうですか?」
「クォン」
「ニャァ」
一息ついたところで六花たちが帰って来た。
「ああ、水奈はもう大丈夫だ」
……六花には止まり損ねてさらに危なくなったことは言わない方がいいよな。
「それは良かったのです。ところでどうしてお風呂に?
それに随分様変わりしていますし…」
「凍結の状態異常があったから風呂に入れに来たんだが、あいにく今日は水風呂の日だから湯が沸いてなくてな。それに重態にもなっていたから……っと、そうだ、六花この文字は読めるか?」
説明の途中で思い出した、少し気になっていた『変若水』のことを聞いてみる。
音声式のシステムメッセージもあったはずだが、焦りすぎて耳に入ってこなかったんだよな…。
「え~と、これは確か…『をちみづ』ですね」
「おちみず……か…」
う~ん、聞き覚えがあるような、ないような…。
「この変若水がどうかしたのですか?」
「ん……ああ、水奈の重態を治すための設備を願ったらこの温泉の泉質が変若水になってな…」
「ええ!?」
お、六花が大声を出すとは珍しいな……そんなに驚くことか?
おちみず……回復系だよな?そんなにおど…ろ……あっ!思い出した。
変若水っていったら若返りとか不老不死の霊薬の名前じゃん!
「六花、驚いているところ悪いが……」クイクイ
俺が何をやったのか確認する為に六花に問いただそうとしたら、何かが俺の服の裾を引っ張る。
「ん、久遠か?どうし……なにしてるんだ?」
振り返ると服の裾を咥えて引っ張っていた久遠と、出しっぱなしにしていたウィンドウを操作している刹那がいた。
……お前もそれ操作できるの?
勝手に操作されるのはこまるんだが……って、俺がウィンドウを開かなきゃダメだから大丈夫か。
刹那が操作しているウィンドウを確かめると、変若水に関してのページを開いている。
「先に調べてくれてたのか、ありがとう」
「クゥン」
「ニャァン」
とりあえず礼を言いながら二人を撫でる。
さて、早速情報を確認してみ……って、あれ?さっきは気付かなかったが、なんかウィンドウ内に表示されている情報が増えているような気が……もしかして。
「ステータス表示、俺」
ステータスを開いて確認してみると案の定レベルが上がっている。侵入者が来るまでは2だったレベルが今は3だ。いつの間にかレベルアップ条件を満たしていたらしい。
さて、改めてウィンドウを確認すると、
《変若水》
月のちからを宿した不老不死の霊薬。口にした者の生命力を活性させる。
やっぱり不老不死の霊薬だったか。
若返りの方は覚え間違いだったか?……一応、温泉の方も確かめてみるか。
《変若水温泉》
月のちからを宿した不老不死の霊薬の溶け込んだ温泉。変若水の性質は薄まっているため不老不死を得られることはないが、極めて高い回復効果は残っている。経口摂取せずとも浴びるだけでも効果がある。温泉の外へ持ち出すと短時間で薬効が抜けてしまうため携行は不可能。
……RPGにある回復ポイントってところか?重態が治るくらいだから全回復できるんだろうな……ん?
もしかして回復できるってことは俺や六花でも問題なく入れるのか?湯に手を突っ込んで確かめてみると、いつものぬるま湯より温かいのはわかるが、ぬるま湯の時に感じる不快感がまったくない。
「今から風呂に入るぞ」
「えっ、いきなりどうしたのですか?」
突然の俺の宣言に六花が驚く。
「この変若水温泉は俺や六花みたいな熱に弱いやつでも入れる風呂だ」
「そうなのですか?というか、温泉って貴重な変若水の使い方として間違っているような気がするのです…」
まぁ不老不死の霊薬使い方じゃあないわな。こんな使い方だからこそたかだか1000ポイント程度で作れたんだろうけど。多分普通に変若水を作ろうとしたら桁が一つ二つ高くなると思う。
「それじゃあ……久遠、逃げようとしている刹那を押さえてくれ」
「クォン!」
「ンニャ!?」
命令する前から動き始めていた久遠がフェードアウトしようとしていた刹那を捕まえているうちにウサギっぽい防寒具を脱がせる。
「ニャッ、ンニャニャ…ニャァァァアッ」
いつものことながら、何で風呂には全力抵抗なんだろうな、この娘は。湿地帯なんかは平気なのに。
「それじゃあ久遠、刹那のことは頼む、六花いくぞ」
「はい」
「クォン!」
刹那を久遠にまかせ、服を脱ぐために六花とともに脱衣場に向かう。……あ、風呂セットも新調しとこ、とりあえずタオルは綿製でいいな。