水奈の献身
井戸を通って部屋に帰って来たわけだが……予想していた痛みがない。あの世か? とも考えたが俺の部屋だな。
どうして無事なんだろう?
不思議に思っていると、身体に何かが纏わりついている感覚がある。なんだこれの透明なゲル状のも……のは……!?
透明のゲル状……まさか水奈?
そういえばしっかり抱えていたはずの水奈が腕の中にいない。
「水奈……お前が守ってくれたのか?」
…………プ……ル……
ゲル状のものに声をかけるとわずかにだが反応があった。水奈で間違いないようだ。
「水奈どうして……!?
ステータス表示、水奈」
あわてて水奈のステータスを確認してみると……HPが残り一桁に……。凍結の状態異常にもなっているのでこのままだともうすぐ死ぬ!
すぐにHP回復できる者は近くに居ないので凍結状態を解くために風呂に急ぐ。ちっ、こんなことならHP回復ができる刹那を連れてくるべきだったな。
ああ、クソッ、風呂は沸いてない、今日は水風呂の日だ。
どうする?台所で湯を沸かす? いや、それでももう間に合わない。お湯をどうにか……そうだ!
「風呂を温泉に改装、承認」
前に腕輪のリストで見た生活空間の作成物にあった温泉を思い出す。なぜか刹那に似合いそうだしいつでも風呂に入れるから作り替えようとも考えたものの、結局ポイントの都合と俺と六花の体質を考えて流れた話だが、今は水奈の方が重要なので迷わず作り替える。
「これでひとまずは大丈夫……か?」
自信がないのでステータスを再度確認してみる。
「状態異常・重態……だと……!?」
すると凍結の状態異常はなくなっているものの、新たに重態になっている。
重態、それはHPが急激に低下をすると起こる状態異常で、程度の低い回復手段では回復しなくなってしまう。しかも放置しているとどんどんHPが減っていき、やがて死に至る。
これはまずい、うちで回復ができるのはナデシコとHPの譲渡の形でできる刹那と久遠だけだが、初期状態で生み出せた妖怪の能力だけあって回復力は高くない。
何か方法は……そうだ!
「重態の状態異常を回復できる設備を作成」
音声入力の利点、それはある程度アバウトな命令でも可能なことだ。ただし、逆に詳細な情報がわからないという欠点があるので同時にウィンドウを開いていた方がいいがな。
──1000ポイント使用して温泉の泉質を変若水に変更しますか?
素早く、そして些細な情報も見逃さないようウィンドウを注視すると表示があらわれた。
1000ポイントか……かなりの高ポイントだが幸いにも侵入者を退治したばかりで払うことが可能だ。だけど変若水ってなんだ?へんわかすい?
……って考えている暇はないな、刻一刻と水奈の命の刻限が迫っているんだ。
「泉質の変更を承認」
とりあえずこの状況をなんとかできるものなら何でもいいので効果の確認は後回しにし作成を承認する。
泉質の変更を承認すると、温泉が一瞬輝く。その後は見た目に変化はないが泉質が変若水とやらに変わったんだろう。
「ステータス確認、水奈」
三度ステータスを呼び戻し確認すると…………ふぅ、どうやら危機は去ったみたいだな。重態の状態異常もなくなったし、HPも徐々にだが回復している。