飴玉の音

作者: ふーちゃん

カラン、コロン。

静かな部屋にそんな音が鳴る。

と言っても別にポルターガイストだのなんだのというわけでもない。

ちゃんと原因は分かっている。

「…お前なんで居んの?」

「いやあ、だって外暑いじゃん?かといって自分の部屋の冷房つけると親がうるさいし、こっちに涼みに来るしか無いじゃん。」

あっけらかんと音の主は言う。人の家を避暑地にしないでいただきたい。

と言っても、こうも遠慮なく自分の部屋に入られるのも今更か。昔からの付き合いの彼女とは遠慮や気遣いなど存在しない。

…親しき仲にも礼儀あり、という言葉が頭の中で明滅したが気のせいだろう。

「というか、せっかくの夏休みだろ。友達とかと遊びに行けばいいじゃねえか。」

「そうしたいのは山々さあ。だけど今回に限ってはみんな先約があってね。各々青春を謳歌してるよ。」

「なんだ、かわいそうなやつだな。」

「夏休み始まって以来ずっと、真っ昼間から机に向かって必死こいて勉強してるやつには言われたくないな。」

ぐうの音もでねえ。宿題が多すぎるんだよチクショウ。夏の魔物は甲子園に居ると聞くが、どう考えても俺の部屋存在しているだろ。

「だからあたしと同じ高校にしろと言っただろう。こっちなど夏休みの宿題など無いに等しいぞ?」

「…。」

まったくもって羨ましい限りだ。オレと彼女は中学までは一緒だったが、高校受験の際に別々になった。

「お前の学力ならこっちの高校だって入れたのになんでまた?」

「…いろいろあったんだよ。」

そんなこと言ってみるが実際深い理由はない。強いて言うなら願書の書き直しが嫌だったくらいだ。

彼女の高校とオレの高校の学力はそんな差がない。行こうと思えば彼女と同じ高校に行けたのは事実。

そんな彼女の高校は夏休みの宿題は最低限しか出さず、生徒の自主性を重んじていた。対してオレの高校は勇者も逃げ出すほどの量の宿題を課してきた。

戻れるなら受験の時に戻りてえ。絶対に無理だが。

「…はあ。」

「んん〜?ため息なんてついても宿題ちゃんは消えないぞ〜?それともあたしが手伝ってやろうかあ?」

「…いいよ、流石にこれはオレがやらねえと意味ないだろ。」

「おお、殊勝なことで。まあ学生の本分は勉強というからねえ。励めよ少年!」

お前も学生だろ、と心の中でツッコミを入れておく。かくいう彼女は宿題をさっさと終わらせているとのこと。彼女も体外真面目だ。

そんな彼女は夏休みを満喫できる立場なのだが、なぜかオレの部屋で満喫してるのが不可解である。

「てかさ、青春を謳歌なんて言っておいて、お前は謳歌しないのかよ?」

カラン、コロン。

と一拍。

「いや、別にあたしはそういうの望んでるわけじゃないし?高校に入ればいい男いるかと思ったけどそんなことなかったしな。」

「…さいでっか。」

質問したオレが返答に窮す。

「ま、告白はされたけどな。」

「まじかよ!?」

さすがのそれにはオレも大きく反応した。

そんなオレを見て、彼女は苦笑しながら、

「そんな驚くなって。さっきも言ったろ?いい男はいなかったって。」

「…ってことは」

「おいおい、いつものお前らしくないな、そんぐらい察しろよ。動揺しすぎ。」

面白いものをみたと言わんばかりの彼女の言葉に、困ったオレは拗ねたような反応で返す。

もっとも見抜かれてるんだろうが。

「あたしだって花の高校生だ。告白ぐらいされてもおかしくないだろう?」

「なーにいってんだが」

言葉ではそんなこと言ってるが、本心は確かにと思ってた。

高校に入ってから彼女は大人っぽくなった。…最近の社会でを見ればなにを大人と定義するのに困るが。

髪型も変え、多少の化粧をするかの彼女は中学の頃の面影がない。

もともと可愛かった彼女だか、さらに綺麗になった。

そんな外見の変化に加え、彼女とは高校も別。家が近いとは言え、今までより物理的に距離が離れた。

そのことによりオレは、『取り残された』と感じていた。もうほとんど話すこともないだろうなと思っていたが、蓋を開けてみればあっけなく、存外普通に話せていた。

…なにが『取り残された』だ。自分から離れたくせに。

「…ったく。」

悪態が口からかすかに漏れたが、彼女には聞こえてなかったようだ。

のんびりスマホをいじりながら、部屋でくつろいでいた。

なんとなく見てるのが気恥ずかしくなり、視線を宿題に戻した。

カラン、コロン。

と波が耳に届く。

「…飴、舐めててんのか。」

「そだよー。」

「オレにもくれよ」

「残念。あたしの分で打ち止めだよ。」

「ちっ…」

オレの部屋にいるのに手土産なしか。

「そんな怒るなよー。何味か知りたいのかー?」

「別に。ただなんとなく舐めたい気分だっただけだ」

笑いながら話しかけてくる彼女に、憮然と答えるオレ。

「ふーん…。じゃあこっち向きなよ。」

「は?なんだー」

オレの言葉は途切れた。いや途切れさせられた。

喋りかけてた口には甘みを感じた。

ホントはもっと明確に味が分かるんだろうが、どうやら今の舌は味覚機能障害を起こしてるらしい。

細かく分からなかった。

あまりに突飛な出来事にショートしていると、彼女は

「何味かわかった?」

ニシシと笑いながら問いかけてきた。

対するオレは

「わかるわけねえだろ…」

と、顔を伏せた。

カラン、コロン。

オレの口からそんな音が漏れた。


初投稿です…。拙い文章ですみませんが、よろしくお願いします。もし感想とかあれば遠慮なくどうぞ!あと多分続きません。