45話後半 テレサちゃんはゲームが好き!
「すみません……エナジードリンクを出した上にお茶を作ってもらってしまって」
「構いませんよ。お茶をいれるのは得意なんです」
エナジードリンク事件から数分。僕がやかんを使ってお湯を沸かし、急須でお茶をいれたのだ。茶葉の量は長年の研究の末に見つけたベストな配分。一般人お茶くみ!!
「ずぞぞぞぞ。ゆー君がいれたお茶は美味しいのです! 心が落ち着くのです!」
ふふふ。そうだろうそうだろう。おかわりもあるぞお!
「ご迷惑をおかけしてしまいましたね……せめて、ここから挽回させてください!」
もうこれ以上何もしなくていいんだけどなあ。ロゼさんはグッと拳を握って気合を入れ、そそくさと奥の部屋へ。
そんな僕の思いをよそに、ロゼさんは何やら箱を抱えて戻ってきた。
「座ってばかりだと退屈なので、なにかゲームでもしましょうか!」
彼|(女)が抱えてきた段ボール箱の中には、ゲーム機とそのカセットがいっぱい。ゲーム機の方は、前に片付けをしたときに見た『SENTENSE GRIDGH』だ。
「このゲーム機ってこんなにカセットが開発されてたんですね……今まで見たことがないですけど」
「実はですね! これらのカセットを開発したのはボクなんです!」
えっへんとばかりに胸を張るロゼさん。これはビックリ、彼|(女)は家事だけではなくカセット開発までやっているらしい。元はゲーセンでバイトしてたくらいだし、この研究所に来てからゲーム好きに拍車がかかった感じかな。
「どれも自信作です! お好きなのをどうぞ!」
「テレサちゃん、好きなのをやっていいよ」
「いいのです!? テレサはゲームが大好きなのです!」
純粋な瞳でカセットを一つ一つ見るテレサちゃん。ロゼさんが作ったカセットだから、爆発する可能性があると思って先を譲ったんだけど、そんな目を向けられると言い出しにくいよね!
「これがいいのです! 『ドキドキエクリプス』!!」
「それは恋愛シミュレーションゲームです! 王子様と困難を乗り越えながら恋に落ちていくストーリーです!」
なるほど、王道だね。問題は、シリアス世界出身のテレサちゃんの口に合うかどうか。
僕はケースからカセットを取り出し、ゲーム機に挿入。電源をオンにしてテレサちゃんに渡してあげる。
『ドキドキエクリプス!』
楽しげな音楽と共にタイトル画面が表示される。それにしてもこのゲーム機のグラフィックは綺麗だな。ゲーセンにあるものとは比べ物にならない。マツリさんすっごい。
『私、ルーシー! 私立魔法学院に通う、いたって普通の女の子!』
画面の下半分にセリフが表示され、その上に女の子のキャラクターが書かれている。おそらくこのイラストがルーシーなんだろう。本当によくできてるな。仕組みはわからないけど、多分ロゼさんが書いたものなのかな。ロゼさんって絵が上手なんだね。
『いっけな~い! こんなことしてたら遅刻しちゃう!』
パンをくわえた制服姿のルーシーが走るイラストが表示されて。
『キャッ!』
ドン、という効果音が発生して、ルーシーが尻餅をつく。
『いたたたた……もう、どこ見てんのよ!』
『ああ!? てめーがぶつかってきたんだろうが!? 被害者面するんじゃねえ!』
おっ、今度は不良が出てきたぞ。ヒョロ長の体形で、髭面がなんとも悪人だ。雑魚臭がプンプンする。
なるほど、この悪役に絡まれているところを王子様とやらが助けに来て恋に落ちる……そういう展開なんだろう。僕の周りの女性陣が強すぎて、『女の子を助ける=かっこいい』みたいな図式は新鮮だ。
「でましたね! その男の人が王子様です!」
「は?」
嘘だろ!? これがか!? この髭面がか!?
「ロゼさん、さすがにこれは人選間違ってますよ……ここまではいい感じだったんだし、考え直しません?」
「だ、大丈夫です! ここからカッコよくなっていきますから!」
『賠償金だ! 俺にケガさせたんだから1万ギル用意しろ!』
賠償金とか言ってるから! ファーストインプレッションでそれはもう取り返しがつかないって!
待てよ。この男の喋り方、そして容姿……なんだか見覚えがあるぞ。
わかった! この不良のモデルはダースだ! そうでもなければこんなやつが王子様なんて道徳的にあってはならない!
「むー。テレサはこの王子様嫌いなのです! いじが悪いやつなのです!」
「そ、そんなあ~~!!」
王子様に対するバッシングを受けて、ロゼさんはべそをかきながら床に座り込んでしまった。
「ロゼさん、さすがにこれは個人の趣味が入りすぎですよ……もう少し大衆向けにしましょう」
「もう、やっぱりボクは才能がないのかもしれませんね……カセットはしまいましょう」
ロゼさんがテレサちゃんからゲーム機を返してもらおうとしたそのとき。
「このゲームはあわなかったけど、次のゲームがやりたいのです!」
「確かに他のカセットもありますけど……やめた方がいいですよ。ボクの実力、わかったでしょう? 才能がないんです。お茶の代わりにエナジードリンクをいれるようなやつですよ。時間の無駄ですって」
「なんで一個ダメだっただけで才能がないって言うのです?」
テレサちゃんは小首を傾げる。ふざけていっているのではない。彼女は真剣に聞いているのだ。
「そ、それは……」
「一個ダメでも、それで才能がないとは限らないのです。テレサは他のゲームもやりたいのです! 面白いゲームがあるかもしれないのです!」
テレサちゃんはそう言って、次のカセットを漁り始めた。その姿はまるで宝探しをしているようだ。目には好奇心が宿っている。
「テレサさん……ありがとうございます! ボク、名作を作れるように頑張ります!」
ロゼさんはテレサちゃんの核心に触れる発言に浄化され、瞳をうるうるさせながら笑った。
うんうん。まだまだやってみないとわからない。諦めるのは早すぎるよね。
そう思い、そのあと、みんなでロゼさんのゲームをやった。もれなく全部クソゲーだった。
おまけ
テレサ「このゲーム、壁の向こう側に行けるのです!」
ロゼ「ああっ! バグを見つけないでください!」
ユート「これも駄目……っと」