薄暗闇の村にて
とりあえずはこれで謎王さんの言うとおりに11連ガチャのやり直しは達成できたのだろうか?
人気のない薄暗い村の中で、俺たち以外の魔物さんが居心地悪そうにモジモジしている。
「なぁ佐嶋氏。とりあえず人数はそろった。ゲームでいうところのチュートリアルがスタートしたんじゃねーか?」
「う、うーん?」
「なによそれ?」
森山さんの疑問がどこについたのかはともかく。
吉田さんのいうチュートリアルっていうのが、誰がゲームのプレイヤーなのかで我々の運命も変わってきそうな気がする。
この謎王さんの『11連ガチャのやり直し』という行為が、謎王さんが運営するゲームみたいな何かに強制参加という事で、
しかもプレイヤーは魔王マリスカレン様……という話なら。俺たちはいわばゲームの駒であるわけで。
そのうち魔王さんから指示みたいなのが来るんじゃないかな?
……今回のガチャのやり直しが魔王さんの知らない事だったりするとかないよね?
プリマリーさんと謎王さんのやることは、プリマリーさんが魔王さんに報告していると信じよう……。
「ん? 佐嶋君。誰か来たわよ」
森山さんが指さす方向を見るとゆっくりと近づいてくるお爺さんが見えた。
ありていに言えば人間の村人だ。
なんだろう、その地味だけれどみすぼらしくない服装とか。
白いあごひげとか。いかにもテンプレ村長みたいな感じに見える。
「おいみんな! あの爺さんを喰ったり殺したりするなよ!」
吉田さんが鋭く叫んだ。リーダーらしく指示している。
しかし、喰うとか殺すとか。いかにもまともな集団でない。
ほかの魔物の皆さんも喰わねーよ、とか返してくれるので。とりあえずお爺さんは大丈夫だろう。
今回のガチャ? だかでこの場に召喚された俺たち以外の8匹の魔物もお爺さんの様子を見ている。
「あのおじいさん。敵意は無いけれど人じゃないよ」
森山さんも腕を組んだままお爺さんを待っている感じだ。敵意はないのは結構だけれども、人じゃないって……
まぁ、ここは謎王さんの領地? だから、謎な人物がいるのかなぁ。
「ほっほっほっ。みなさん。謎の村へようこそお越しくださいました」
「え?」「そゆこと?」「最初の村人は女の子にしてほしかった……」
吉田さんのファーストコンタクトは女子希望の言に激しく同意するが、それよりも……。
テンプレ村長的なお爺さんの声は、どう聞いても謎王さんの声だった。
「謎王さん?」
「……いまは、謎村の村長ってことでよろしくなのね」
謎王さんが中身の自称村長は、気持ち悪くウインクした。
「あ、はい」
ほんとに中身はまんま謎王さんだね。
「わしはこの村の村長、ナゾウじゃ」
「……」「……」「……」
「おお勇者よ! どうか謎村をお助けください」
「……」「……」「……」
「え? なによ? ゲームってこういう感じで進むんじゃないの? 間違ってる?」
「いや、まぁ。なんだ……」
吉田さんも困り始めている。
……何がしたいんだ。まさか、わざわざ異世界に召喚しておいて無料RPGの実体験とかさせたいのか?
まぁ、魔王や謎王さんなりの目的があるのかもしれないけれど。
「じゃ、続けるわよ。じゃなくて、続けるぞいっ! 知っての通り世界は……異界からの超越者どもに侵され滅びようとしている!」
「ほう?」
「……いや知らないし。そういう状況だったのこの世界?」
森山さんも声を出すが、謎村長は続けた。
「まもなくここにも超越者や人族が押し寄せてくるだろう……。どうか奴らを倒しこの世界を救ってくれい」
え? 村を救えとか言っておいて世界を救えとは……。