第十六話 代用品
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ひたすらこちらの顔色を窺うガネットをどうにかやり過ごし、俺とポメラ、フィリアは、《
歩き回り続けた上に妙な気疲れもあったので、休憩を兼ねて早めに食事を取ることにした。
目についた酒場へと入る。
「酒場ですか……」
ポメラが呟くように口にする。
俺は彼女の言葉につい身構えてしまった。
「……俺はあまりお酒は得意ではありませんし、ポメラもその……あまり酔っ払って欲しくはないので、食事だけでお願いしますね」
「そ、そのう……ポメラ、以前、そんなに酷かったのですか……?」
ポメラが不安げに尋ねて来る。
俺は苦笑いを返答ということにさせてもらった。
「その反応が、一番もやもやするのですが……」
「……多分、聞かない方がいいと思います」
「そ、そんなにポメラ、酷かったのですか……? いえ、カナタさんが聞かない方がいいと言うのであれば、聞かないでおこうと思います……。その、迷惑を掛けてしまったみたいで、申し訳ありません……」
ポメラが項垂れる。
俺の脳裏に、机に頬擦りしながら快活な声で『カナタしゃーん』と口にしていたポメラの姿が浮かぶ。
……俺もあのときのポメラは見なかったことにしよう。
「えっと……それで、その、鉱石の件はもう諦めるのですか?」
俺は深く頷く。
「ええ、それに関して大変なことに気が付きました。どうやら、都市で購入できるアイテムはC級アイテムが限界のようです。ここより上は、他の冒険者と直接繋がりを作るか、自分で取りに向かうしかないのかもしれません……」
俺は頭を手で押さえる。
もう少し《神の血エーテル》を慎重に扱うべきだったのだ。
価値を見誤ってとんでもないことをしてしまったかもしれない。
「あっ……やっぱり、気が付いていなかったのですね……」
ポメラが遠い目でそう言った。
「ごめんなさい、ポメラがもう少ししっかり伝えるべきだったのかもしれません……。あまりにもカナタさんが自信満々だったので、ポメラの方が何か勘違いしてるのかなと考えてしまいまして……」
……やはり、俺の想定していたレベルの基準やアイテムの基準は滅茶苦茶であったようだ。
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もう少し、固定観念を捨てて周囲を見直した方がいいのかもしれない。
「しかし、《アダマント鉱石》が手に入らないとなると、今後どうすればいいのか……。エーテルを用いて、ポメラさんのレベルをもう少し上げてあげたかったのですが……どんどん先延ばしになってしまいますね」
「……その、ポメラのレベルも、別にそこまで上げてもらわなくてもいいような気がすると言いますか……」
ポメラが言い辛そうに口にする。
「カナタ、欲しいものがあるの?」
傍らに座っていたフィリアが声を掛けて来る。
「ああ、希少な鉱石が欲しかったんだけど……思ったよりも三段階くらい希少だったみたいで、手に入る目途がなくなってしまったんだよ」
フィリアは口にしていた食べ物を一気に呑み込み、自信ありげに自分の胸を叩く。
「じゃあ、フィリアがカナタのために出してあげる! ね、ね、カナタ! なんていう名前の、どんな石なの?」
「出して、あげる……?」
「早く早く!」
俺が首を傾げていると、フィリアが急かしてくる。
「《アダマント鉱石》っていう、とても硬い紫色の石なんだけど……」
「わかった! フィリアに任せて!」
フィリアが手を握って「えい!」と叫び、手を開く。
その中には、紫色の光を帯びた鉱石が握り込まれていた。
少なくともその外見は、俺の知る《アダマント鉱石》と一致している。
「え、えっ……ええ!?」
俺は驚きのあまり、店の中であるということも忘れて大声を出してしまった。
「フィリア、凄いでしょ? 褒めて、褒めて!」
得意気にそう口にするフィリアの横で、ポメラが呆然と彼女を見ていた。
「カ、カナタさん、これって、いったい……ど、どうなっているのですか?」
「……元々、フィリアちゃんの身体は《夢の砂》の塊だった」
《夢の砂》は、万物を生み出す錬金術の究極の触媒だ。
加えて、人の想いに呼応し、ありとあらゆる願いを叶える力を持っている。
彼女はその力を制御して、ドラゴンを生み出したり、俺の力をコピーしたり、分身体を造り出したりと、これまでにもやって見せていた。
しかし……まさか、希少鉱石を思いのままに造り出すことができるなんて、思いもよらなかった。
あまりに便利過ぎる。
「お客様、店内ではお静かに」
俺が場所も忘れて興奮していると、酒場の女店員からそう警告を出されてしまった。
「……すいません、つい」
謝りながらも、頭の中はもう《夢の砂》のことでいっぱいになっていた。
食事が終ってから、宿屋の一室にてフィリアの生み出した《アダマント鉱石》の検証を行うことにした。
俺は部屋内に、店から購入してきた鍋を並べ、その中にフィリアの《アダマント鉱石》の破片を入れて、様々な面からその性質の検証を行っていた。
「どう? どう? フィリア、カナタの役に立てる?」
フィリアが興奮気味に尋ねて来る。
「……やっぱり駄目かもしれません」
「だ、ダメ、なの……?」
俺が答えると、フィリアはショックでその場でよろめいた。
ポメラが慌てて彼女を支える。
「だ、駄目なんですか? フィリアちゃんは、色んなものを造り出す力があるって、カナタさんがそう言っていましたのに……」
「色々と制約があるみたいです。フィリアちゃんが造れるのは、基本的に対象と近しい性質を持った劣化コピー……という形になるみたいです。それに造り出した対象が一定の大きさ未満になると、崩壊して《夢の砂》に戻り、フィリアちゃんに取り込まれるようになっているみたいでして……」
その性質上、フィリアのコピーを素材にしたり、薬にすることは恐らくできないようだ。
どうやら《アカシアの記憶書》でも、フィリアの造ったものは《夢の砂》として認識されているようであった。
「ただ、《夢の砂》があれば《アダマント鉱石》を作ることはできるかもしれません」
「本当? フィリア、カナタの役に立てる!?」
フィリアが顔を輝かせて復活する。
まだ確定したわけではないが……《夢の砂》があれば、下位の鉱石を用いて《アダマント鉱石》を錬金術で造り出すことができるはずであった。
《夢の砂》は元々、万物を生み出す錬金術の究極の触媒なのだ。
フィリアの制御による特異能力を発揮せずとも、使い方次第で幅広い物質の性質を書き換える力を持ってる。
《アダマント鉱石》そのものを造り出せずとも、似た性質を持つ代用品を造り出すことができれば、《神の血エーテル》の素材にすることができる。
活路が見えてきた。
問題なのは、その錬金実験のために、どうしてもお金が必要になることだが……。