第六十三話 《夢幻の心臓》
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ゾロフィリア
種族:夢幻の心臓
Lv :1800
HP :3211/8100
MP :8100/8100
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ついでに、俺は一応ゾロフィリアのレベルを確認しておいた。
やっぱり、レベル2000くらいだったか。
すぐに片付け……。
「なんだ、あの種族名……?」
「驚かされましたよ……本当に。まさか、ゾロフィリアが枷を外して、恐怖の神以外の姿を取る必要が生じるなんて……! 五千年前でも、一度しか記録に残されていないことだ……」
「オ、オオオオ、オオオオオオオオ……」
上の階層で、ゾロフィリアが仮面を残したまま膨張し、巨大化していく。
「縛り付ける民としてではなく、ましてや蹂躙の対象としてではなく、自身を脅かし得る敵であると、たった一人の人間をそう認識するとは! だが、ゾロフィリアのお遊びもここまでということ! フフ……なまじ強いがばかりに、貴方は恐怖を知ることになる……!」
ゾロフィリアは……一体、なんなんだ。
悪魔ともまた違う。
だが、神というには、ナイアロトプの同族だともとても思えない。
しかし、ここまで来て退くわけにはいかない。
俺は地下室の床を蹴って跳び上がり、ゾロフィリアの空けた大穴を潜って地上階層へと出た。
どうやらここはパーティールームであったらしい。
天井にはシャンデリアが輝いており、前には音楽家でも招くことがあるのか、ちょっとした舞台がある。
ゾロフィリアの面が小さくなり、代わりに身体の部分が二十メートル近くにまでなっていた。
臓物の塊だったような身体が、ドラゴンを模したような姿になっていた。
背中からは大きな翼が伸びており、手には禍々しい爪がある。
この部屋の天井は五メートル以上はあったが、それでも巨大化したゾロフィリアには天井すれすれの高さとなっていた。
「姿が変わったところで、ステータスは……」
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ゾロフィリア
種族:夢幻の心臓
Lv :2141
HP :4746/9635
MP :6952/9635
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レ、レベルが、上昇している!?
確認している今も、レベルが上がり続けている。
ゾロフィリアの体表は、常により分厚く、強靭に変異し続けている。
こんな、経験値取得以外の要素でレベルは上昇するものだったのか。
い、いや、そんなはずがない。
いや……ルナエールから、こんな話を聞いたことがあった。
この世界では、他者を殺めることで、その魂の一部を力として継ぐことができる。
それが、レベルと経験値の正体である、と。
仮にその魂の力を自在に操ることができるのであれば、レベルが上昇したとしてもおかしくはない。
どこまで上がるのかわからないが、速攻で倒さないと、本当に手が付けられないことになる。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ゾロフィリアが爪を振るう。
俺は身体を引いてそれを躱す。
床が容易く砕ける。
部屋全体が揺れ、絵画やシャンデリアが落ちていく。
縦に、横に、爪撃が放たれる。
どんどん攻撃の重さが増している。
俺は引きながら《英雄剣ギルガメッシュ》の一閃を放ち、ゾロフィリアの腕を斬り飛ばした。
しかし、すぐに新しい腕が生えて来る。
同時に、斬り飛ばしたゾロフィリアの腕が萎み、虹色の砂へと変わるのが見えた。
ゾロフィリアが、大きく振りかぶった一撃を放ってくる。
俺は正面から受けて立ち、刃で応じた。
ゾロフィリアの腕に、縦に大きな傷が走った。
この再生力とリーチの前では、決定打を与えにくい。
ゾロフィリアのどこが弱点なのかもわからないが……一度、魔法の間合いまで離れた方がよさそうだ。
ゾロフィリアはその勢いで身体を回し、二又の巨大な尾を俺へと打ち付けて来た。
意表を突かれ、俺は《英雄剣ギルガメッシュ》で防ぎ、身体への衝撃を抑えるために宙へと飛んだ。
尾の衝撃を受け、俺は後方へ弾き飛ばされた。
「時空魔法第十二階位《
魔法陣が展開され、直径三メートル程度の紫の光の球が俺を包み込んだ。
この光の中では、あらゆる速度が遅くなる。
これで自分への衝撃を抑えることができる。
俺は壁に足から着地し、《
いつの間にか、ノーツがこの部屋へと来ていた。
ゾロフィリアを見上げ、口をぱくぱくさせている。
「そ、その姿は……まさか、《始祖竜ドリグヴェシャ》!? ゾロフィリアよ、この男は、そこまでせねば倒せない相手ということなのですか……? なぜ、なぜだ……なぜ、ゾロフィリアと互角に戦える……? 《始祖竜ドリグヴェシャ》は、最強の生命体のはず……」
どうやら、ノーツはゾロフィリアのこの出鱈目な能力を最初から知っていたようであった。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」
ゾロフィリアが俺へと追撃を仕掛けて来る。
だが、この間合いなら、魔法を叩き込める。
図体が大きくリーチの長い相手には、剣で戦うよりこっちの方がよさそうだ。
その肉の鎧を、削ぎ落してやる。
「炎魔法第二十階位《
俺はゾロフィリアへ剣先を向けた。
赤黒い炎の竜が魔法陣より生じた。
豪邸全体が火に包まれる。
赤い竜は床を、壁を蹂躙しながら、ゾロフィリアへと襲い掛かった。
「オ……ゴッ!」
ゾロフィリアが火達磨になり、膝を突いた。
俺は《双心法》で、二発目の魔法を準備していた。
「時空魔法第十九階位《
黒い光が広がり、急速に萎んでいく。
その光の縮小に巻き込まれるように、炎に包まれるゾロフィリアが中心へ押し潰される。
俺はそこへ距離を詰め、右斜めと左斜めに、二発の剣撃を放った。
ゾロフィリアの竜の身体が、バラバラになって地面へと落ちた。
薄れて消えていき、虹色の砂へと変わっていく。