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第五十六話 D級冒険者オクタビオ

 ポメラは大杖を構え、オクタビオへと向けた。


「ポ、ポメラのことを悪く言うのはいいですが……カナタさんのことを悪く言うのは許せません! 撤回してください!」


「人間擬きのゴミが粋がってるんじゃねえぞ。俺様に杖を向けるってことは、ぶち殺されたいってことでいいんだよなあ?」


 オクタビオがポメラへと凄む。

 だが、ポメラは目を逸らさず、オクタビオへと睨み返した。

 オクタビオはポメラの様子に更に殺気立ったように、顔の皺を深めた。


「ほう? どうやら、本気で殺されたいらしいな、おい。森荒らしとの混じりもん如きが、随分と舐めた真似してくれるじゃねえか」


 俺はポメラの前へと出た。


「何のお話ですか。あまり、友好的な態度とは思えないのですが」


「当たり前だろう? 趣味で冒険者やってる、ボンボン野郎はちょいと頭と察しの方が悪いようだな」


 オクタビオは鼻息を荒げ、背負っている斧を手に取った。


「気に食わねえんだよ、お前がよお。オッフの野郎が急に消えやがったから、お前達に構ってる場合じゃねえと思って放っておいてやったが……お前らの行動があまりに癪に触るんで、同じ依頼を受注して尾けさせてもらったわけだよ」


 オッフというのは、俺達にゴブリンの群れを嗾けようとした、オクタビオの取り巻きだった小男のことだろう。


「俺達の行動が癪に触る、とは」


「誤魔化すんじゃねえよ」


 オクタビオが大きく目を見開く。

 こめかみに青筋が浮いていた。


「お前みたいに、金で功績を買ってるようなグズがいるから、俺様のような真面目にやってる冒険者が割りを食うわけだ。お前が裏で仕入れた魔物の亡骸をギルドへ流して功績点稼ぎしてるのはバレバレなんだよ。他の奴も、みぃんな言ってるぜ。ギルドは儲けが出ればいいと放置しやがってるが、俺達からすりゃ粗だらけなんだよ。馬鹿が、金に物言わせて下手なことしやがって」


 ……そんなふうに疑われていたのか。

 確かにふらっと訪れた旅の冒険者がレベル7だったポメラを仲間に選び、順調に実績を積んで級を上げていけば、奇妙に映るのかもしれない。


 しかし、今回においては、そこは大事なポイントではない。

 オクタビオは、俺とポメラが実績を積む前にも、オッフを送り込んで依頼中の事故に見せかけての暗殺を目論んでいた。

 要するにこいつは、俺とポメラが気にくわないから追いかけ回してきているだけなのだ。


「……あの小柄な人……オッフさんからあなたへの警告を出してもらったつもりだったのですが、彼はあなたに伝える前にこの都市を去ったのですか?」


「なにやらごちゃごちゃ言ってたが……お前が買収しやがったんだろう? いい身分だなあ、いや、お遊びで冒険者やってる、魔法袋持ちのぼんぼん野郎は違うなぁ」


「聞いてから来たと言うことは、覚悟して俺達を狙って来たと、そういうことでいいんですよね」


 次は容赦しないと、俺はオッフに確かにそう伝えた。

 俺は魔物はこれまで散々殺して来たが、人間は手にかけたことがない。

 その覚悟も俺にはできていない。


 だが……オクタビオがここまで執拗に俺達を狙っているというのであれば、こっちもこれ以上は甘い考えではいられない。

 もう少し、非道な手段も取るべきなのかもしれない。


「覚悟だと? それをするのは貴様らの方だ。都市外での殺しは、どうせ滅多なことがねぇ限り犯人が裁かれることはないからよお。どうせ、低レベルで役立たずな混じりもんのゴミに、おぼっちゃんとは言え親元から離れてフラフラ遊び歩いているような野郎だ。貴様らが死んでも誰も気に留めやしない。ペットと飼い主諸共、仲良くぶち殺してやるよ」


 オクタビオの言葉に、俺も苛立って来た。

 俺に突っかかってきた言い分も滅茶苦茶だが、ポメラへの見下し意識が凄まじい。

 ここまでオクタビオが殺気立っているのは、俺のことより、下に見ていたポメラがC級冒険者候補になっていることもあるのかもしれない。


 ポメラはオクタビオの言葉を聞き、辛そうに唇を噛んでいた。

 俺はそれを見て、余計に苛立ちが募った。


 俺はポメラの、自分を顧みずに見ず知らずの俺を助けてくれた人間性を信頼し、互いに利があったからこそ仲間に選んだのだ。

 彼女は決して役立たずではない。


 俺にとってもそうであるし、ロイもポメラを手放すことになった際には俺に抵抗しようとしていたくらいだ。

 本当に彼女が役立たずであれば、そんなことをするわけがない。

 ポメラはいつだって人の役に立てるように頑張っており、行動力も勇気もある。

 そんな彼女が、多少ロイのレベルから劣っていたくらいで本当に役立たずであったとは思えない。


 それにオクタビオはポメラを低レベルというが、今ではポメラの方が遥かに上のレベルになっている。


「……わかりました。でしたら、オクタビオさんの言い掛かりが誤りであることを証明しましょう。それで、引き下がってもらえるんですね」


「なに……?」


 オクタビオが不可解そうに顔を顰める。


「ポメラさんと、一対一で戦ってください。それであなたが敗れたら、二度と俺達に関わらないで下さい。もし彼女が敗れたら、この魔法袋でも、俺の命でもなんでも差し出しましょう」


「ポ、ポメラがですか? ど、どうして、そういうことに……別に証明なら、カナタさんが出ても……」


「俺はポメラさんがここまで言われて悔しいです。ポメラさんは、悔しくありませんか?」


「そ、そういう気持ちは、ないこともありませんが……」


 ポメラが自信なさげにオクタビオの方を向く。

 レベルで圧倒していることは本人も分かっているはずなのだが、対人戦の経験自体がないため、勝ったときの自分を上手くイメージできないのかもしれない。


「ぶっ飛ばしてやりましょう。今のポメラさんなら、充分にそれが可能なはずです」


「わ、わかりました。ポメラ、やってみます!」


 ポメラが大杖を握る手に力を込め、オクタビオへと近づいた。


「まずは、この女から殺せってことか? どの道二人共ぶっ殺してやるつもりだったが……いいだろう、お前の目の前で、この人間擬きをバラバラにしてやるよ!」

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