第二十七話 コキュートス攻略
ルナエールの時空魔法によって《
どうにか這い出て、《
天井と階段の付近一帯は、倒壊したダンジョンの瓦礫で埋め尽くされていた。
ルナエールの《
時空魔法の第十七階位なので俺でも扱えないことはないが、あんな周囲の全てを破壊する様な規模と威力にはならない。
そもそも、自分を上手く逃がす様な絶妙な制御ができない。
……しかし、割と容赦のない突き落としだった。
多分、一度《ウロボロスの輪》の蘇生効果が発動していたように思う。
ここまでやらないと、俺が戻ってきてしまうと考えたのだろうが……。
「ありがとう……ルナエールさん。俺、どうにかやってみます」
正直……外に出るよりも、ルナエールの元へと戻りたいという気持ちはまだある。
しかし彼女は、俺が外の世界に出て普通の暮らしを送ることを望んでいる。
またいつかはルナエールの元を訪れるとして、彼女の気持ちを尊重する意味でも、しばらくは外の世界を見て回ってみよう。
ダンジョン内は強力な結界に覆われており、時空魔法などによる大規模な移動には制限があるという話だった。
しかし、外の世界にはそれを覆すような力もあるかもしれない。
それが見つかれば、外の世界からルナエールの許を訪れることも、いくらかは簡単になるはずだ。
俺は瓦礫の山へと頭を下げ、更なる下の階層を目指して歩くことにした。
ルナエールは地下百階層まで行けば、そこから地上まで出られるはずだといっていた。
しばらく歩いて進んでいる内に、俺は行き止まりに出ていた。
壁の前に、黄金に輝く盾が落ちていた。
……なんとなく、懐かしい感じがする。
俺はわざとらしく壁際まで行って、黄金の盾を拾い上げてみた。
その瞬間、目前の壁が開き、巨大な口が現れる。
「やっぱりか」
大きな口が喰らいついて来るのを、俺は地面を蹴って前へと避けた。
壁はくちゃくちゃと口を動かしてから、不思議そうに口を歪めた。
「ナ、ナ、ナイ……」
俺は黄金盾を握り潰す。
盾は輝きを失ってただの土へと戻り、バラバラになった。
「……おかしいな、こんなに遅かったのか」
グラトニーミミック、かつて俺の腕を喰らってくれたのと同種の魔物だ。
黄金や食糧を土塊から造り出し、魔物や冒険者を騙し、油断しているところに喰らいつく。
初見の時は喰われてなお何をされたのか理解するのに時間が掛かったが、今は壁に口が生じてから、俺に喰らいつこうとするところまで、はっきりと目で捉えられていた。
レベルが上がったためだろう。
「ム、ム、無念……」
壁に生じていた口が閉じて、消えていく。
ルナエール曰く、グラトニーミミックの強みは、壁を盾にして攻撃を妨げ、壁の中を移動することができることだという。
ダンジョンの壁とほとんど一体化しており、好きに潜り込めるのだそうだ。
そのため、一度隠れたグラトニーミミックを倒しきるのはなかなか難しいと、そう言っていた。
とはいえ、壁ごと壊してしまえばいいだけなのだが。
俺は壁を指で示し、魔法陣を紡いだ。
「時空魔法第十九階位《
黒い光が壁に広がり、それが急速に圧縮されていく。
「オナガズイダァアアアアア!」
壁が崩れて光の中央に押し潰されて行き、グラトニーミミックの断末魔の叫びが聞こえた。
辺りに黒くてドロドロした、グラトニーミミックの奇妙な体液が飛び散った。
《
《
あそこの悪魔も結構個体差が激しいので、今の俺でも気を緩めていると唐突に超位魔法を叩き込まれて《ウロボロスの輪》送りになることがある。
間の抜けた小鬼の様な外見の悪魔がいたので、さっさと剣で仕留めようとしたら、全身がクリオネの様に裂けて大きな口となり、半身を持っていかれたこともある。
異様に頑丈な上に攻撃力が高かった。
今思えば、あの小鬼擬きが《歪界の呪鏡》の中で一番強かったかもしれない。
ふと俺は、ルナエールの言葉を思い返した。
『霊薬や予備の武器、魔導書を詰めておきました。《歪界の呪鏡》も入っていますが、扱いを間違えて悪魔を世に放たないように気をつけてください』
あのときは空気というか流れで気にしていなかったが、《歪界の呪鏡》をそういえばくれていたのか。
……な、なんで俺に渡したんだ?
確かにこれがあれば、今後のレベル上げも容易ではあると思うのだが……ちょ、ちょっと荷が重いというか……。
……何はともあれ、この調子ならば道中で苦戦することはなさそうだ。
何分階層が多いため距離がありそうだが、さっさと急ぎ足で攻略してしまおう。