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燻し銀塗装の軽トラが走る。
ピクシスの横っ腹には『村崎農園(観光・販売)』の看板を付けて。
「うちはぶどう園なんだ。この時期はぶどう狩の人も来ないからヒマでさ」
運転席のソウが助手席のソノタに説明をする。
自転車のトウジとカツト出発から五分後に小さな峠を超えた麓で燃料補給。
さらに十分後、そのガソリンスタンドから軽トラは走り出した。
走る事五分、とすぐに、自転車上の赤いジャージの二人組の背中をとらえた。
追い付く寸前に、二代の自転車は右折して民家の間の細い横路に消えた。
右ウインカー点滅させた軽トラも、すぐ『次の次』の横路に入りかなりの急勾配を数十秒登り、丘の中腹の民家の庭先に停車した。
それは里山の一角に立てられていた。
黒瓦に白土壁の古色蒼然とした一戸建ての二階家。
向かって右手の下り斜面との境から裏手にかけては、一階分の高さのブロック塀。
建物の前と右の塀の間にアスファルトに覆われた、それぞれ横に四台、手前奥に二列の車八台分ほどと、縦に三台分ほどの駐車場兼用の庭。
建物の左手と裏手には深い杉林が広がっていた。
ソノタがピクシスから降りて建物を眺めると、広い玄関の磨り硝子の戸には、立てに灰色い「旅荘谷崎鉱泉」の文字が書かれていた。
キキィと音を立てて、青色の軽自動車がピクシスの後ろに停まった。
「今開けるから」
シエンタの助手席からカツトが降りて、手にしたキーで建物の玄関を開けた。
「メシ、ずりあげだけど良いだろ」
運転席からそう言いながらトウジが降り、言葉を続けた。
「ソウもカツトもソノタも荷物、手伝ってくれ」
「へいへい」
トウジの指示にソウが返事をした。