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自転車で体育センターに乗り付けたソノタは、自転車を二重ロックしてから、チェーンキーで車庫の柱にくっ付けた。
体育センターに入り、ソノタは小ホールのドアを開けた。
「すいません、バイトで遅くなりました」
「大丈夫、大丈夫。まだ、誰も来てないから」
式部が手をヒラヒラさせながら、にこやかに小ホールから出てきた。
「ソノタのテレビでやったドラマ視たよ。ライバル役だったよ」
にへらっと式部が言った。
「……あぁ、俺はだいたいそのポジションの役ばっかりなんで、どの作品の誰役でしょうか?」
ソノタは、頭を掻いて式部にたずねた。
「『いつも俺の心には体重計が』のファーストシーズンだね。あれ、原作好きだったから」
「すいません、すいません。好きだったなら誠に申し訳ありません」
式部の前で咄嗟にソノタは土下座した。
「何を謝ってんの?ソノタは『馬面巨人』役だったね。小さな巨人だ、このドラマでの解釈はね。原作まんまだと原作知ってると面白く無いけど、ドラマ版にアレンジしてあると驚けるよな」
式部が優しく笑った。
「ありがとうございます。あれは、ミスキャストだ、クズだ、カスだ、ゴミだと、原作ファンに散々叩かれました」
土下座のまま、顔だけ式部に向け、ソノタは涙を流して訴えた。
「ミスキャストなのは、選んだ制作側が悪いんだよ。ソノタのせいじゃないから。ほら、立った立った」
式部がソノタを立ち上がらせた。
「式部さん、カツトくんは氏子さんのお祝いでお酒呑まされて今日はお休み」
シオリが事務室から顔を出した。
「何、手を取り合ってんの?社交ダンス?」
シオリが疑問を口にした。
「いや、『俺体』の『馬面』役の事を話したらソノタが急に謝り出してさ」
苦笑しながら式部が、シオリに説明をした。
「あぁ、原作では2メートル級の学生巨体力士役を百七十センチ無い無名くんがやってセカンドシリーズから出なく成った役ね。あの無名くん、あれソノタくんだったんだ。何で出なく成ったの?」
「原作ファンからミスキャストだって指摘されたんだと」
その様子は、シオリと式部が、ソノタの古傷に多量の塩を塗り込んでいるようだった。