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高橋のお陰で、難局を【カエルの大比企大河くん】は乗りきった。
「みんなで、さよならをいえるかなぁ。せーの」
樋口の音頭に子どもらが言った。
「「さよー、ならー。おーかぁーくん、ありが、とー」」
「またきてねぇー」
子どもの声に両手を振りながら【カエルの大比企大河くん】は楽屋に帰った。
「ありがとうございました」
高橋に頭を下げる【カエルの大比企大河くん】は、早くもその姿を黄色い丸首半袖シャツに黄色のトランクスのソノタにメタモルフォーゼさせていた。
「ごめんなソノタ、今回はうちの手落ちだから。【こんにちは】しないで、まあ無事のりきれてよかったなぁ」
ほっとしたように高橋はいう。
「そんな中坊みたいなことしねぇよ。でもいつ造ったん、これ?」
「おれが入社した時には有ったから、七、八年前かな?」
ソノタの質問に高橋が指を折って数える。
「生地弱りまくり」
「まさか、小さいお客様に破られるとはなぁ。こないだの時は無事だったんだけど。ま、リニューアルするまで、そこファスナー付けてごまかすから、安心して」
高橋はソノタこ肩をたたいた。
ソノタのバイト先は、いつぞやの不動産会社だった。
散々ふたりで物件回りをして、仲良くなった高橋が誘い、ソノタが受けたのだ。
のそのそグレーのスェットの上下を着込んだソノタに高橋が続けた。
「そっち行く用事あるから送る。自転車ワゴンに積めるから持って来て」
「ありがとユウイチ。でもトレーニングんなるからいいよ。じゃまた」
ヒラヒラと手を振り、リュックを背負ったソノタはその場を後にした。