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「らっしゃい、こんにちは」
裏寂れた様な木造アパートの玄関ドアを開けてソノタは客を迎えた。
「ちにゃ〜、ソノタ来てやったぞ」
横柄な態度で小柄な男性があがりまちで靴を脱ぎ、両手にレジ袋を提げて、ソノタの畳敷の四畳半ほどの部屋に、入って来た。
「お久しぶりっ、ヒラカズ先輩、お先してまぁす」
「まぁす」
部屋の中台所前のローテーブルで既に、ポテチ、チータラ、干しカワハギ、タコ足燻製をつまみにビール風味発泡酒を、あおっていた青年ふたりが、ヒラカズに挨拶をした。
「にちゃ〜、ナミユキと、かわばっちゃん、おひさー。これ差し入れ」
ヒラカズも挨拶して四角いローテーブルのテレビと反対側に空いていた席に座った。
「なんすか、なんすか」
かわばっちゃんが、早速レジ袋をあさった。
「蓮チップス〜。ビール〜。スルメ〜。ビール〜。柿ピー。ビール〜。チョコピー。ビール〜。ポン酒〜。サイダー。ウーロン〜。レンコン金平〜。蓮サラダ〜。唐揚げ〜、って何の唐揚げこれ?」
ローテーブルを埋めてゆく品々を見てナミユキがつっこんだ。
「唐揚げって、レンコンの唐揚げ?ヒラカズ先輩、どんだけレンコン好きなんですか」
「蓮は体にいいんだよ〜ん」
差し入れを並べながらヒラカズが言い、言葉を続けた。
「で、ノブオっちは?」
「あぁ、マッちゃん先輩は、仕事で、地方行っててこれないって」
ソノタが、パックいりキュウリとワカメの酢の物と、チーズとサラミの盛り合わせをテーブルに並べながら言った。
「そか。じゃ、もういいかな」
「はい」
四角いローテーブルのテレビ側の空いた一辺にソノタが座り、ヒラカズの言葉にうなずいた。
「では、我々が選んだ、ぱっとしない俳優ナンバーワン連覇の太宰其太の今後についての会議を始めさせていただきます」
「オレの名前はマスコミのぱっとしないランキングには出てませんよ」
ソノタが口をはさんだ。
「知名度が致命的で認知されてねぇ〜んだろがよ。因にオレぱっとしない俳優はジャスト十位」
かわばっちゃんが言った。
「大河と朝ドラ両方出てたもんな。オレは圏外だけど。ほら、オレかわいこちゃん枠だから、女子高校生が弟にしたいランキング俳優で七位よん」
ヒラカズが自慢気に言った。。
「アラサーの癖に!何で女子高校生の弟!でもオレ、巣鴨で孫にしたい俳優ランキング九位だから」と言うナミユキにヒラカズが返した。
「早朝の帯番組は巣鴨年齢層にぴったりだからね。あのお客様インタビュー録画だろけど」
静かに遠慮がちに、ナミユキが言った。
「まぁ、いくら巣鴨の商店街でも、流石に朝の五時代には、客いないですから」
ヒラカズが言う。
「そう言えば、楽器うまい俳優ランキングでノブオっち連覇だよね」
「以外な特技って、マスコミの食い付き良いから。ノブオ先輩、去年だか一昨年だか映画でも演奏者役やってたな。オーケストラのチェロ奏者役」
「チェロの演奏ヒューチャーされた後に、殺人事件起きて直後に、行方不明になって、犯人だから逃げたのか!?大捜索て成ったのに、実は犯行の目撃者で、既に真犯人に殺されてて、コントラバスのケースの中からラスト、死体で見つかる役」
ソノタが言った。
「よく覚えてるじゃない、ソノタ」
ヒラカズの言葉にソノタが続けた。
「その役、実はオレ、オーディション通ったんだけど、チェロ弾けなくて。その頃【凄腕者・頂上決戦】て番組でチェロとか、テルミンとか、ソーとかの演奏対戦が有って、マッちゃん先輩優勝して」
「あったあった。今は季節大会だけだけど、四、五年前は毎週やってたやってた」
と、かわばっちゃんが言って続けた。
「で、ソノタがオフされて、ノブオ先輩にチェロ奏者役のオファーが行ったわけか。映画の話題作りだ」
「ソノタにも特技が有ったらな、ギターとかドラムだとオレでもできるし、バンドマンとか山程やれる奴もいるから、特技とはいえないし」
ナミユキが腕を組んで頭をひねった。
「で、これ見てくれないかな」
ソノタがテレビのディスプレイを点けて、記録媒体の再生スイッチを押した。
『そ、そ、そ〜の外回り〜……』
足踏みオルガンの様な伴奏に乗って調子外れのソノタの歌声が流れ始めた。