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「もうけたね。それは。だが次はできない。会計のお姉さんが領収書と経費の交換と言っていたのだろう。ちゃんとしていないとマスタースレイブの信用にかかわる」

その日のお昼過ぎソノタが事務所にケーブルテレビとの契約書を持って行くと、担当マネージャーの根津が出迎えた。

契約書を渡し確認してもらいながら、アルティメットテーザーボールチームの件やタクシーチケットをもらい転売したことを告げると根津は釘をさした。

「【紳士たれ】がこの事務所の設立者の社訓なのだから」

と根津は面談室の壁にかけられた額を指差した。

「冗談はともかく、ケーブルテレビの方もスポーツチームも同じ地方だ。この地方からなら、今までの仕事場まで公共交通を使って一時間ていどだが、レギュラー皆無で、単発ドラマと映画の端役が今月は四本、来月は今のところ二本と。他方ケーブルテレビの仕事とスポーツチームの練習日等で、週四でかようようだ。で、君はどうする」

根津はソノタの目を見つめた。

「どうって?」

ソノタの返事に根津が続ける。

「君が向こうに軸足を移すかどうかということだ。向こうに住めば交通費は激減する。アメリカでリーグも創られた注目スポーツ、アルティメットテーザーボールを特技として君が取得すれば、この種目の【セントピーターズバーグオリンピック】での関連番組はわが社の一人勝ちで間違いない。なのでマスタースレイブは、君の特技取得とそれに関わる経費を出すと決めた。役員会で承認も得ている。で、君はどうする」

黙って、根津の話を聴いていたソノタは言った。

「一切合切、経費を事務所で出すから移住しろってことですよね」

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