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「いらっしゃいませ」
「タクシーチケット買い取りしてますか?」
タクシーではなく電車で帰路についたソノタは自宅最寄り駅近くの金券ショップのドアをたたいた。
「プリペイドカードの方でしょうか、冊子の方でしょうか、どちらでしょうか」
店主らしきスーツに縁なしのグラスを掛けた若い男性に封筒ごと差し出してソノタが答えた。
「あ、冊子なんですけど」
受け取った男性が封筒を開けた。
「ちょっと拝見させていただきます。よろしいでしょうか」
「えぇ、どうぞ」
「ありがとうございます。【全日本乗用旅客自動車協会】さんの【全日本タクシー共通乗車券】で三千円の冊子が、一、二、……計六冊でございますね。確認の方させていただきますが、よろしいでしょうか?」
「えぇ、まぁ」
ソノタの答えに、メガネの男性はすぐ隣のブースに六冊のタクシーチケットを回した。
別のスーツ姿の男性が、何やら光を当てたりスコープを当てたりといろいろなことをした。
ノートパソコンに何事かも打ち込み、男性は最終的にメガネの男性に何事か耳打ちした。
「お待たせいたしました。こちらのお品の方ですが、額面の方が三千円かける六冊ですから一万八千円となります。ただいま当店ではタクシーチケット冊子の方の買い取りの方が八割りかけ買い取りと成りますので、買い取り価格の合計の方が、一万四千四百円となります。よろしいでしょうか」
「はい」
「では、ご本人様確認をさせていただきたいので、証明のできる……」
「マイナンバーカードと運転免許でいいですか?」
「はい、お預かりいたします。ではこちらの方、コピーの方を取らせていただきますが、よろしいでしょうか」
「はい」
「では、少々お待ちください」
ソノタはあくびをした。
「お待たせいたしました。ありがとございました。こちらの方お返しいたします。マイナンバーカードと運転免許証の二枚と成ります。ご確認ください。それと、こちら、お預かりいたしました封筒になります。よろしいでしょうか」
「あ、どうも。大丈夫です」
「では、こちら、どうぞ一万四千四百円に成ります。ご確認ください。よろしいでしょうか」
「はい。有ります」
「ありがとございました。また、お売りいただける物、ございましたら当店の方までお持ちください。お待ちしております。お気を付けて、お帰りください」
メガネの男性が頭をさげた。
こちらも頭をさげて無言で金券ショップを出るソノタの背中に、ふたりの男の声が響いた。
「「ありがとうございました」」