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「それは、俺のせいだから、式部監督がわざと言わなかったじゃないんだ。たぶん。俺が煮え切らなかったから」
そう言ってソノタは黙りこんだ。
「なんでそんな風におもうのかなぁ？」
そのソノタにカツトが再度、話をうながした。
またソノタが口を開いた。
「テーザーがネックでね。あの番組の時は來留間さんに良い処見せよう、きちんと次に繋げよう、とか色々思ってたわけなんだけど、着替えてる間に大隈監督がエキセントリックになったりで……」
ソノタは烏龍茶を一口飲んだ。
「……けど、撮影終わって局に戻ったら、エントランスに谷中プロデューサーとかＭＣの來留間さんとかスタッフさんみんな居て【今まで御苦労様】って來留間さんが白とピンクのカスミソウの花束渡して来て。えっ、俺のコーナー無くなるの？そんなの聞いてない！って固まってたら、あの千駄木優さんが出てきて何か記念品みたいなのくれて【後は引き継ぐから安心してくれ】とか言われて。千駄木優さんのオーラってか存在感半端無くって思わず【ありがとございます。よろしくお願いいたします】って言っちゃって、スタッフがすごい拍手して。でもこれからどうしよう俺。その場その場のドラマと映画の役は来るけど、テレビで顔と名前みんなに売る、覚えてもらう、レギュラー……無くなった。どうしようって思ってた」
話しながらソノタは涙を浮かべていた。
「同じ七光り二世俳優でも、向こうは【日本三大ディーヴァ・Ａ−ｙａ】と【五年連続日本シリーズ優勝野球監督・千駄木勝】の息子で、紅白三年連続出場に、日本ディスク大賞獲得に、甲子園入場行進曲に【君の夢が】が使われた【バンド・テイクオフ】のギタリスト兼ボーカルで、今朝ドラ【さらさら、さらさ】でヒロインの沙良ちゃんを助ける、英雄役もやってる俳優の千駄木優」
ソノタは自分を指差して続けた。
「事務所のウェブページ視たんなら知ってるよね、俺は、お笑い芸人の【こなた、かなた】の【おやまのこなた】が父ちゃんで【日本アカデミック賞助演女優賞受賞女優・太宰花怜】が母ちゃん……だけど父ちゃんグラドルと不倫して、三歳ん時に両親離婚して、俺は父ちゃんに引き取られて、だけど父ちゃんグラドルと再婚はしなくて、母ちゃんは【ハリウッド俳優で大河の主役もした】【太宰秀一】と俺が中学二年ん時に再婚して【芸名が太宰花怜だったが本名も太宰花怜に】ってスポーツ新聞で取り上げられて、下の名前だけで子役やってた俺は、本名は父ちゃんの名字だけど、その中学二年の時から、芸名に母ちゃんの太宰を使わせてもらって、だけど太宰秀一、今ヨーロッパとハリウッドの映画に、出続けてて来日しないから、母ちゃんも帰って来なくて、俺の太宰は何の太宰だか分からない状態っで、本名に戻そうにも、父ちゃんの名字今市なんで、俺の本名【今市其太】で……」
三人が口の中でソノタの本名を呟いて目を伏せた。
「まあ、芸名が【ダザイソノタ】で、本名も【イマイチソノタ】で、どっちもあんまパッとしないから……」
ソノタの自嘲に、カツトが口を挟んだ。
「ソノタは芸名じゃないの？ウェブページには本名出てなかったから聞くんだけど」
ソノタが答えた。
「何か父ちゃんの師匠の【やまのあなたそのた】の【やまのそのた】師匠が、俺が産まれた時に自分の名前を、くれたんだよ。って父ちゃんが言ってた。やまのそなた師匠は、今は本名の【高見原八雲】に戻してやってるんだけどね」
目元を手の甲でぬぐってソノタは続けた。
「で、レギュラー番組無くなって、映画で真犯人に殺される模倣犯役やって、現場で仲間や先輩に相談したら【家電俳優】とか【スイーツ俳優】とか【マラソン俳優】【ハンドボール俳優】【カルタ俳優】なんて、特技を活かして活躍中な人が多いから、俺の特技は何だか考えてもらったら、あの來留間さんが隣の撮影スタジオから差し入れしてくれて、その時にみんなに【其太くんはこの間の体験レポートの時に珍しいスポーツで一軍さん相手に、得点アシストして、監督さんに素晴らしいオリンピック狙える逸材だうちのチームに入ってくれってスカウトされてたの】って言ってくれたんだよ。そしたら仲間とか先輩とか、絶対にやった方が良い、仕事の幅も広がるし、第一レギュラー切られて、お前暇ありすぎだろて言われて。大隈監督にもらったら名刺に電話して、またトレーニングセンターまで来て、大隈監督と話しながらテーザーを押しあてられたら……気絶してたらしく、気がついたら医務室で、ジュジュベのオーナーって人がいて、大隈監督が今回は見送るって言ってたけど、もしやる気があるなら、ジュジュベがサポートしてる地域チームに入らないか？って言われて、先輩とかに相談して、昨日の夜ジュジュベのオーナーにお願いしますって連絡したら、こうなって【とにかく、俊敏に、予測不能な動きで撹乱できるように、ここで鍛練しましょう。フラッシュトードスの監督は、テーザーに触れなければ、無問題って方ですから】と言われて腹を括り、お願いしました。そしたら昨日の夜中にジュジュベのオーナー、式部監督に連絡とってくれて今に至るということです。なのでみんな俺のせいなんで、式部監督が隠してたわけじゃないんで。そんな経緯なんだけど、これからよろしくお願いします」
と、頭を下げてソノタは締めくくった。