95 喪失と覚醒(Ⅳ)
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もし、遠野花鈴の正体が
だからこそ、確認も兼ねて宮古杖助にも聞いてみるのだ。
同じクラスで普段から彼女を見ているだろう"遠野花鈴の性格に違和感はないか?"と聞いたのだ。
自分の確証を裏付ける為に。
しかし、彼の反応は──。
「うーん、特には」
「──は?」
非常に予想外のモノだった。
「そりゃ入学式以降の記憶ないんですから、人間関係に多少ぎこちなさみたいなのはありましたけど、今はホラあの通り」
そう言って指し示す先にいるのは、中庭でクラスメイトと昼食を囲み談笑する遠野花鈴の姿。
「そもそも、たがが一年分記憶消えたとしても人格形成に大きな影響があるとは思いませんけどね」
冷静に現実的なことを言う宮古杖助。
だがそれは今欲しい言葉じゃない!
「それはそうなんだけど! 実際は違くて!」
その消えた一年分が、実質数十年分の可能性があるんだよ!!
──だなんて言えるはずもなく。
「あーもういいですわ! 貴方にヒトを見る目がないことは十分わかりましたし!!」
そう言って私は、プンプンと怒りながら足速に彼の横を通りすぎて立ち去ります。
「え、なんか酷くない?」
後ろから聞こえた呟きも無視。
スタスタとズンズンと歩みを進めると斜め後ろからあやめちゃんが声をかけてきた。
「どこに向かってるんですか? こっち、教室じゃないですよね?」
確かに、私が向かっているのは教室ではない。
向かう先は教科実習棟。
より正確には、化学準備室。
「本当なら率先して関わりたくは無かったのですが、非常事態っぽいですから、手段は選ばないことにしますわ」
その化学準備室にいるだろう人物の名は、
それぞれ
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傍らで盛り上がるトークを半ば聞き流し、何となく遠くを眺める。
遠くを眺め──ようと思っても、校舎に囲まれたこの中庭では白亜の壁までしか見えない。
「はぁ」
ため息。
仕方なく顔を上げて、高く遠い青空を仰ぎ見る。
「──これからどうしようか」
ボクこと遠野花鈴は、実は既に記憶喪失じゃなかったりするのだけど。
──うちあげるタイミング、逃しちゃったなぁ。