93 喪失と覚醒(Ⅱ)
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「──、むう」
「なんか、難しい顔してますね」
遠野花鈴の退院から数日経った。
あやめちゃんがそんなことを聞いてきた。
「まぁ、そりゃ難しい顔にもなりますわ」
私の視線の先にいるのは、中庭で級友たちと昼食を取る遠野花鈴の姿だ。
そしてその級友たちの中に
元々二人は常に一緒という関係性ではなかった。
しかし、あの日以降別行動を取る場面が増えた気がする。
その結果、遠野花鈴退院後に私たち三人は未だ集まっていない。
あの事件を契機に、明らかに遠野花鈴は変わり、私たちの関係性にも変化が生じてしまっていた。
「この状況、すごく良くない感じが──嫌な予感がしますわ」
今私が感じてる嫌な予感というのは、気のせいとかではきっとない。
何故なら、この状況にデジャブを感じるのだ。
──原作の裏ルートに。
裏ルートというのは、今まで一介の友人キャラとして振る舞っていた遠野花鈴が本性を現す最難関シナリオ。
遠野花鈴を除く全ての
最難関と言われる所以は、シナリオ自体の陰鬱さや選択肢のシビアさもあるけど、真に困難なのは仲間作りと言わざるを得ない。
他ルートだと攻略対象キャラ+αといった1〜3人程のキャラを集中攻略すれば良かったのだけれど、裏ルートは
しかもゲームシステムの都合上、
緻密なスケジュール管理と情報収集、そして豪運。
それら全てが必要なのだ。
「正直、このルートに入りたくないから今まで頑張ってきたといっても過言ではないのに、なんかちょっと兆候が見え隠れしてまして」
「兆候ですか?」
「原作だと、こんな感じでまず滝沢月乃と遠野花鈴の距離が離れ始めるの。そして月乃さんの身に不自然な事が起こり始めて、そして全ルートの中で例外的に
「そして?」
思わず言いかけた言葉を寸前で飲み込む。
この続きは、あやめちゃんに言うべきではない。
「忘れましたわ」
そして嘘を吐いた。
何故なら、その言葉の続きは
『一連の事件の犯人を特定した紫波雪風は、遠野花鈴に口封じで殺されてしまうのだ』