89 こんなつもりじゃなかったけども(Ⅱ)
「──いった!」
同時に彼女の腹にボディブローを差し返えした。
無論、彼女の平手打ちと違い本気の一撃という訳では無い。
キノや紫波雪風にバレない程度にこっそり、最低限の
それでいて、相手の神経をキチンと逆撫で出来るくらいには痛く殴った。
ボクの反撃に彼女は一瞬怯む。
そしてその瞬間、すかさず手を離し怯む彼女の脇をすり抜け紫波雪風の肩を掴んで抱き寄せる。
「──走るよ」
「え、へぇ!?」
突然のことだからか惚けたアホ面さげてる紫波雪風の手を引きながら、そして後方のキノに目配せをして三人で逃げる。
さて、そして彼女らがボクたちの後を追って来てくれれば良いんだけど。
多分追ってくるだろうけど、ちょっと追加で煽っておくか。
ふたりにバレないようにこっそり後ろを振り向く。
そこでこちらを見つめる彼女らに向かって、思い切り舌を出して馬鹿にした表情を浮かべて見せた。
「っざけやがって!!」
効果的面。
ブチギレしてこちらを追って来た。
さて、ここまでの行為で彼女らの標的は紫波雪風からボクへと移行している。
それじゃあ、
▽▲▽
「はぁ、はぁ、ちょ、ちょっと遠野花鈴! 貴女どこに向かって」
「追いついたわよ!!」
「リンちゃ──」
私たちより一歩前を進んでいた月乃さんが振り返る。
ふたりが助けてくれたのに、私はまだ震えて自分から上手く動けずに。
後ろから肩を掴まれた遠野花鈴はそのまま振り向かされて、思い切り頬を打たれた。
今度のはさっきのと違う、走って来た勢いもついた痛烈な攻撃だった。
私を引っ張って走らせていた手が離れて、遠野花鈴が床に転ぶ。
その姿を見て、先程のリーダー格の少女が血走った目で足を後ろに振る。
転んだ遠野花鈴に追撃するつもりだと、私ですら理解出来た。
月乃さんも気が付いて、例の少女を止めようと手を伸ばすが──足りない。
届かない、間に合わない。
走馬灯のように妙に間延びした視界で私はそれを見ていた。
眺めていた。
──私は、ダメな人間だ。
大切な人を守れない奴だ。
そんなの、前世からわかっていた。
私を助けてくれた遠野花鈴がこうなってもまだ、暴力の恐怖に支配されて見ているだけしかできない。
──ダメな奴、だけど。
ここで、一歩を踏み出さないと。
出さなければ、誰にも、もう二度と顔向けできる気がしない。
月乃さんにも、遠野花鈴にも。
そして、紫波雪風にも。
「──っ!」
気がつけば私は、ふたりの間に割って入っていた。
少女のキックがふとももに刺さり、痛みと共にガクッと力が抜けて片膝をつく。
そんな私の胸ぐらを少女がつかもうとしたその時。
「ま、まずいよちょっと!」
「これ以上は一旦待って!」
そんな彼女を止めたのは、彼女の取り巻きの少女ふたりだった。
両脇から彼女を挟み込んで腕を掴んで静止させる。
まずい、一旦待って。
先程は自分たちも加担していたのに、何故いきなり止める側に回ったのだろうか。
そこで私は、ふと気が付いた。
周囲の人混みの密度が、あまりにも多い事に。
──日曜昼だということを加味しても、人が