88 こんなつもりじゃなかったけども(Ⅰ)
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打たれるのを覚悟して目を瞑った。
──しかし、その瞬間は来なかった。
「──え」
恐る恐る目を開ける。
そこにあったのは手を振り上げる彼女と、その手を後ろから掴む遠野花鈴の姿だった。
「は? アンタ何よ?」
「そっちこそ、ボクたちのツレに何の用?」
遠野花鈴の更に後ろには月乃さんも、何故か胸の前で拳を握って待機していた。
それを見て、手を握られてる少女はあからさまな舌打ちをする。
状況が自分たちの不利に傾いた気がしたのだろう。
ここで彼女たちが次に取れる行動は二択だった。
ひとつは一旦この場を去る、引くこと。
引いて、次の機会を窺い続けること。
多分それが彼女たちからした最善手なのだろうと、嫌に冷静になった頭で考える。
しかし──。
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「そっちこそ、ボクたちのツレに何の用?」
ボクは紫波雪風を殴ろうとした少女の腕を掴み、視線で彼女らを威圧する。
ボクの後ろにはちゃっかりキノも付いてきて、結果的に状況はかなり変わった。
三対一の構図が三対三に変わったのだ。
数の有利は崩れた。
ここで彼女たちが暴力に訴えるのは部が悪い。
彼女たちにとってこと暴力というモノは、
だから、彼女たちが次に取るべき選択肢はひとつしかない。
それは撤退すること。
少しでも部が悪いから、敗北の可能性があるなら引くべきだ。
何故なら、ここでリスクを負う理由がないから。
冷静に考えるならこの場は一度退き、またいつかチャンスを狙えばいい。
その方がリスクは低いし、確実性はある。
──
「──。」
ボクに腕を掴まれたままの少女が、反対の手を振り上げる。
まぁ、「ここで殴り合いの喧嘩は不味い」とか、「また今度にすればいい」とか「よりやりやすい手立てはなんだろう」とか考えられるのはいつだって冷静な奴だけだ。
そして暴力を振るうような場合、その時の精神状態はどう考えても
だからこそ、迷わず最悪の一手を打つのだ。
──臨むところだ。
このボクに対して悪手を打つ意味を彼女らは知らないのだろう。
ならば、何倍にもして返してやろう。
最悪にはより最悪を。
そしてボクは
「──いった!」
同時に彼女の腹にボディブローを差し換えした。