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88 こんなつもりじゃなかったけども(Ⅰ)

 ▽▲▽


 打たれるのを覚悟して目を瞑った。

 ──しかし、その瞬間は来なかった。


「──え」


 恐る恐る目を開ける。

 そこにあったのは手を振り上げる彼女と、その手を後ろから掴む遠野花鈴の姿だった。


「は? アンタ何よ?」


「そっちこそ、ボクたちのツレに何の用?」


 遠野花鈴の更に後ろには月乃さんも、何故か胸の前で拳を握って待機していた。

 それを見て、手を握られてる少女はあからさまな舌打ちをする。

 状況が自分たちの不利に傾いた気がしたのだろう。

 ここで彼女たちが次に取れる行動は二択だった。

 ひとつは一旦この場を去る、引くこと。

 引いて、次の機会を窺い続けること。

 多分それが彼女たちからした最善手なのだろうと、嫌に冷静になった頭で考える。

 しかし──。


 ▽▲▽


「そっちこそ、ボクたちのツレに何の用?」


 ボクは紫波雪風を殴ろうとした少女の腕を掴み、視線で彼女らを威圧する。

 ボクの後ろにはちゃっかりキノも付いてきて、結果的に状況はかなり変わった。

 三対一の構図が三対三に変わったのだ。

 数の有利は崩れた。

 ここで彼女たちが暴力に訴えるのは部が悪い。

 彼女たちにとってこと暴力というモノは、()()()()()()()()()()()部が悪いと言えてしまうから。

 だから、彼女たちが次に取るべき選択肢はひとつしかない。

 それは撤退すること。

 少しでも部が悪いから、敗北の可能性があるなら引くべきだ。

 何故なら、ここでリスクを負う理由がないから。

 冷静に考えるならこの場は一度退き、またいつかチャンスを狙えばいい。

 その方がリスクは低いし、確実性はある。

 ──()()()()()()()


「──。」


 ボクに腕を掴まれたままの少女が、反対の手を振り上げる。

 まぁ、「ここで殴り合いの喧嘩は不味い」とか、「また今度にすればいい」とか「よりやりやすい手立てはなんだろう」とか考えられるのはいつだって冷静な奴だけだ。

 そして暴力を振るうような場合、その時の精神状態はどう考えても()()()()()()

 だからこそ、迷わず最悪の一手を打つのだ。


 ──臨むところだ。


 このボクに対して悪手を打つ意味を彼女らは知らないのだろう。

 ならば、何倍にもして返してやろう。

 最悪にはより最悪を。


 そしてボクは()()()その平手打ちを顔面で受け──。


「──いった!」


 同時に彼女の腹にボディブローを差し換えした。

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