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82 三人の肖像(Ⅱ)

 ▽▲▽


「まぁ、お兄ちゃんはいないんですけど」


 あくまで今世(いま)ではって枕詞がつくけど。

 ──自分で言っておきながら、ちょっとおかしいセリフだ。


「それって、お兄ちゃん()()()な人ってこと? 親戚の人とか」


「うーん」


 月乃さんの言葉に対して、曖昧な返しをする。

 前世にて、(わたくし)のお兄ちゃんはすごく()()お兄ちゃんでした。

 私がリビングで乙女ゲーやってても文句言わない邪険にしない。

 それどころかゲームの話題を自発的に振ってくれたり。

 不登校になった時も腫れ物扱いせず、変に説教もせず、よく話し相手になってくれた。

 今の私があるのは、きっとあのお兄ちゃんの存在が大きい。

 だからこそ、お兄ちゃんとの繋がりを今世であっても否定したくなかった。

 お兄ちゃんは、()()()()()ではなく、紛れもないお兄ちゃんだったから。


「ところで、プリクラですが」


 この話を深掘りされると嫌だなっと感じた私は、話題を元に戻す。


「もうこの際、出たとこ勝負で適当に入るのも良いと思いますわ。失敗や不手際も良い思い出になりそうですし」


 間違いも失敗も青春の思い出になる、とお兄ちゃんだって言っていた。

 だから、()()()()そんなに怯えなくてもいいと。


「そうかな──そっか! よし、じゃあコレだ!」


 そう言って、月乃さんは手近な適当なプリクラ機に突入していく。

 私はちらりと遠野花鈴に視線を送る。

 すると彼女は微かに笑った。


「キノがいいならボクは全然良いよ」


 そう言って月乃さんに続いて行った。

 私もそれに続いてプリクラ機に入る。

 三人が入った瞬間、ちょうど案内音声が響いた。


『キュート&ホラールームへようこそ! 可愛く恐ろしく撮っちゃおー!』


 ──私たちの間に、一瞬の静寂が訪れる。

 そういえば、外見全く見てなかった。

 なんか、よっぽどのキワモノを選んでしまった感じがする。

 そっと、私と遠野花鈴は月乃さんの方を見る。

 彼女は、少し惚けたような表情ののち、くすりと笑った。


「変なの入っちゃったけど、これもアリ?」


「──まぁ、アリかな?」


「アリかもですわ」


 ▽▲▽


 こうして、初の三人で撮ったプリクラは、皆異様に色白で犬歯剥き出しのドラキュラスタイルとなった。


「ボクたちの誰かが闇堕ちした時に、仲が良かったころの写真みて正気に戻るシーンに使われそうだね」


「ドラキュラのプリクラで正気に戻る展開とか、中々正気じゃないですわね」

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