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76 ピンチとチャンスは紙一重(Ⅳ)

 ▽▲▽


「げぼぐぁっはッああ!?!?」


 麺を啜った瞬間、強烈な辛さ──否、激痛が口内を蹂躙した。

 突然の、予期せぬ覚悟なしの状態で襲撃をしてきたソレに対し無防備なボクは女子にあるまじき奇声を発した。


「大丈夫!? お水お水!」


 心配したキノが急いでお冷を寄越してきた。

 それを受け取るや否や呷るように飲み干す。

 幾分か口内の痛みが落ち着いて、ようやくここで思考も冷静さを取り戻す。

 ──間違いない、これはハバネロエキスの辛さだ。

 つまりどういうことか。

 ここでボクはキッと紫波雪風を睨む。


 ──コイツ、自分のとボクのをすり替えやがった!


 それはいつか?

 決まってる、あの停電の最中だ。

 あの突発的トラブルを、奴は見事に活かしてボクにカウンターを仕掛けたのだ。

 なんてことだ、紫波雪風はとんだ策士じゃないか。

 ──いや、策士とも違うか。

 ボクがやったことをアドリブで回避し、あまつさえ仕返してきたのだから。

 事前に調べて作戦を立ててという策士タイプではない。

 即興で全てを解決してしまう天才型──!

 ボクは、紫波雪風を侮っていたのか。

 くそっ、「この人一体どうしたんだろう?」みたいなリアクションでこっちを見やがって白々しい!


「もしかして、遠野さんは辛いの苦手なのかしら?」


 うるせぇバーカ!!

 ──と言いたいのを喉元でぐっと堪える。

 ここで変に騒ぎ立てれば、紫波雪風だけでなくボクの馬脚も現さなければならなくなるのは必至。

 なるべく穏便に、キノに何かが起こっているというのを気付かれないように解決しなければ。


 ──それって、コレを完食することなんじゃ?


 その事実に気がついて、軽い絶望感が襲う。

 え、何?

 ボクってこんな天罰くらうレベルで悪いことしたかな?

 ──したな、割と心当たり豊富だぞぅ。

 これ、完食かぁ。

 ボクの消化器系、もってくれるかな。

 やるしか、ないか。


「だ、大丈夫。ちゃんと食べるから」


 そういって、ずるっと二口目を口にする。

 辛い、すごく痛い。

 口内で小さいハリセンボンがピンボールしている様だ。

 泣きそう。

 だが泣いたらボクの悪事が露呈する可能性が。

 もういっそ諦めるか?

 でもそうしたら、紫波雪風の思う壺だし、キノの未来が曇ってしまう。


 どうする、どうしよう?


 涙と共に麺を嚥下し、さっと自然な動作で呼び鈴を鳴らす。


「ご注文お伺いしまーす」


 現れたスタッフのお姉さんに一言。


「──ヨーグルトドリンク、お願いします」


 結局、ボクはこの地獄を食べ尽くす道しか選べなかった。

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