72 昼食にて(Ⅴ)
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「ふたりとも、どれにする?」
キノはそう言ってウキウキした様子でメニュー表を開く。
このファイヤー餃子道場は、名前通りの餃子もそうだが他の中華料理も数多くそろえてある。
坦々麺などの麺類に、レバニラ定食などの定食系。
コスパ重視ならば定食系もアリだが、何品か一品ものも注文してシェアするのも全然アリだ。
「うーん、どれも美味しそうだね」
「デスワネ」
「どうせなら餃子注文して三人でシェアしない?」
「デスワネ」
「いいわね! じゃあ、私は唐揚げ炒飯セットを食べようかな? デザートに杏仁豆腐付くみたいだし!」
「──デスワネ」
──いや、紫波雪風?
さっきから様子おかしくない?
どうした、まさかこちら側を何か警戒して──いやそれはないか。
じゃあ何なのだろう。
何かを強く警戒していて、心此処にあらずみたいな感じじゃないか。
さっきから同じセリフしか繰り返していないし。
視線はずっと下向いているし。
「ボクはそうだなぁ」
取り敢えずそれはそれとして、自分の分をさっさと決めねば。
取り敢えずメニュー表にさっさと目を通す。
ここは万が一を考えて、キノとは被らないメニューを選択した方がよさそうだ。
「ボクは坦々麺にしようかな、紫波さんは?」
「
どうした紫波雪風。
君がボクと同じメニュー頼むだなんてらしくないぞ?
いつもは何故かボクに対してだけ反抗期みたいな態度なのに。
次の瞬間、紫波雪風の手元で大きな音が。
スマホの着信音だった。
「す、すいませんちょっとはずします!」
そう言って彼女は突然立ち上がると入り口に向かって走り去っていった。
「何かあったのかな?」
「まぁ、何かはあったんだろうね」
本来なら追いかけて聞き耳でもたてたいのだが、今回は諦めよう。
「一応、もう注文は頼んじゃおうか」
「紫波さん待たなくても大丈夫?」
「逆に待たせると気を使われそうだし、ここは先に全員分オーダーしても良いと思う」
そう言ってボクは、テーブルに備え付けてある呼び鈴を鳴らしてスタッフを呼ぶ。
「お待たせしました! ご注意を伺います!」
「炒飯セットひとつ、坦々麺ふたつ、餃子を単品でひとつお願いします」
ボクがそうオーダーするとスタッフの女性はにっこり笑って復唱し、厨房へと向かっていった。
彼女の後ろ姿を見送ったところで振り返ると、何故だかキノが眉間に皺を寄せて首を傾げていた。
「──さっきのお姉さん、どこかで見た気がするような」