64 映画館にて(Ⅲ)
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「そろそろ行くよ」
映画開始15分前になり、入場が可能になったのをアナウンスで確認したボクはふたりに声をかける。
ベンチで座っていたキノと紫波雪風は軽く返事を返して、先を行くボクの後ろをついてきた。
今この瞬間、ボクの背中で手元がふたりの視線から遮られたのを確認した。
その隙に、事前にネットで購入しておいた睡眠薬を
先程、ボクが三人分纏めてドリンクを買ってくる手筈になるように仕向けていたらベストではあったが、実際はそう上手くいかない。
結果、なんやかんや三人それぞれで購入。
そしてその後は、自分のドリンクを紫波雪風花一度も手放していない。
流石に紫波雪風もボクに自分のドリンクを任せるのは、警戒していたみたいだった。
しかし、コレは想定済み。
代案は既に考えてあった。
ボクはこの時、紫波雪風と同じドリンクを購入していた。
同じ見た目の、同じサイズの、同じドリンク。
つまりは、すり替えても違いがわからないモノを。
だからこそ、ボクは自分のドリンクに睡眠薬を混入させておき、上映中に上手いことすり替えることで、彼女を眠らせるというプランに微調整をかけた。
しかし、いくら上映中だとしても違和感なくすり替えられるのか。
今度は、そういう問題が発生する。
ーーしかし大丈夫。
そこも織り込み済みだ。
そんな風に計画を脳内で反芻していると、劇場内へいつの間にか入っていた。
入り口からスクリーンの左側通路に抜ける。
そこで席のある縦のアルファベッドを確認しながら進み、該当列を発見する。
だからここでキノに声をかける。
「キノが一番右の席だから先に入って」
「はいはーい」
そうやって後ろのキノと紫波雪風に先頭を譲って、スクリーンに対し平行に並んだ席列に入る。
入り、席に着く順番は右からキノ、紫波雪風、ボクの順番だ。
映画を見るとき、自分のドリンクは肘掛けについたドリンクホルダーに入れる。
何故なら大体の場合ドリンクは氷入り。
手で持ち続けると冷たいし、結露で濡れる。
だからこそ、劇場内にドリンクを持ち込んだなら、必ずドリンクホルダーは使われる。
そしてそれは左右の肘掛けどちらにもついている。
この場合、使うのは利き手側。
右利きなら右を使うし、左利きなら左を使う。
そして、ボクは知っている。
紫波雪風は、左利きだ。
以前、休み時間に自販機前で見かけた時、彼女は缶ジュースを飲もうとしていた。
この時彼女は、右手に缶を持ち左手でプルタブを開けていた。
その動きは、左利きのやり方だ。
そして今日、ボクが座るのは
紫波雪風はボクのいる側に、自分のドリンクを置く。
そうなれば、薄暗い上映中にこっそりすり替えるのは容易だ。
用意周到に作戦を練って置いてよかった。
「紫波さんってコレの原作読んだことある?」
「興味はありますが、活字はちょっと苦手で」
紫波雪風はキノとそんな会話をしながら席の椅子を倒して座る。
そして、ドリンクをーー。
「ーーは?」
ーー